平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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多島斗志之『金塊船消ゆ』(講談社文庫)

金塊船消ゆ (講談社文庫)

金塊船消ゆ (講談社文庫)

戦後四十余年たったある日、鳥居甚一の許へ一通の手紙が届いた。昭和十九年十一月フィリピンのバターン半島で焚いた<四つの火>を再現しようとの呼びかけだった。四つの火は旧日本軍の金塊船が沈められた場所の目印だという。真相を求めてフィリピンへ渡った鳥居の前に、巨大な敵が待ちかまえていた!(粗筋紹介より引用)

1987年9月、実業之日本社・ジョイノベルスより刊行された作品の文庫化。



第二次世界大戦を扱った日本のミステリ、冒険小説は意外と少ないらしい。少なくとも書かれた当時は。そう解説の西木正明が書いている。今では良質の冒険小説が書かれている現状なので、その解説は今では何となく違和感を覚える。

四つの火を目印に沈められたはずの金塊船。しかし目印の場所にあるはずの金塊船は見つからない。その真相を追う、という設定は、冒険小説としてわくわくさせられるはずの展開である。ところが読んでいても、まどろっこしい。手紙が届けられてから、動き出すまでの事態の説明が長すぎる。たしかに船を沈めた当時の話、そして金塊船を追う当時陸軍大佐の参議院議員や、生き残りの鳥居の元中隊長たちとの最初の接触。謎が提示されてから、動き出すまでに本の半分以上の頁が費やされるのだ。さらに、アッという間に解決してしまう事件の謎。枚数の都合があったのかもしれないが、本来だったらもっと複雑な謎に頁を費やしたかったところに違いない。

事件のスケールがそれなりに大きい分、結末が肩すかしなのが残念。フィリピンのマルコス失脚まで絡まったこの物語。今だったら、この倍の長さになっただろう。書きたいものが書ききれないもどかしさが、この本から伝わってくる。