平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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栗本薫『伊集院大介の冒険』(講談社文庫)

山科警部補のいとこが経営するペンションで、幽霊が出ると大騒ぎ。山科に頼まれ、除霊をしにやってきた伊集院大介だったが、さらに怪現象は続き、とうとう見知らぬ男性の死体まで。「殺された幽霊」。

元暴走族トップの大滝は、恋人ができたため足を洗ったものの、仲間や大滝に目を掛けていた暴力団に狙われるようになった。さらに父親やライバル暴走族からも狙われていた。そしてとうとう追い詰められ、袋小路に逃げたところをナイフで刺されて死亡した。ところが、刺されたのは壁があるはずの背中だった。「袋小路の死神」。

やり手の人気デザイナーが殺害された。浮気ばかりの気弱な夫、従業員、モデルなど容疑者はいっぱい。被害者が握りしめていた、特殊なチェック模様の布見本は、ダイイングメッセージなのか。「ガンクラブ・チェックを着た男」。

大介がカオルに語る学生時代の事件。破格のアルバイトにつられ、青ひげ荘と呼ばれる豪邸に来た大介。そこの女主人が大介に語ったのは、自らの完全犯罪だった。「青ひげ荘の殺人」。

建設会社を日本で十指に数えられるまで成長させた70歳の社長が、後妻を追い出して20歳の女子大生を妻に迎えようとした。後妻や子どもたちは当然大反対。しかし社長は遺言状を書こうと別荘に閉じこもったが、上の崖がダイナマイトで爆破され、別荘ごと潰れて死んでしまった。「獅子は死んだ」。

莫大な財産を持つ竜造寺家は、家族から鬼ババと呼ばれる母親が全てを仕切っていた。そんな母親が留守の夜、半身不随の父親が毒殺された。「鬼の居ぬ間の殺人」。

山科警部補の友人は、かつてはスポーツ万能の二枚目だったが、結婚してから運動を止め100kg近いデブに変わっていた。そして41才の若さで心不全で死亡した。山科は妻が怪しいと、大介に相談したのだが。「誰かを早死させる方法」。

1981年〜1984年、『小説現代』『小説新潮』に発表。1984年8月、講談社ノベルスより刊行。1986年8月、文庫化。



タイトルは、やはり『シャーロック・ホームズの冒険』から? それとも『金田一耕助の冒険』から? まあ、色々な「冒険」があるが、それと並びを合わせることで、本格推理小説かつ名探偵が活躍する短編集でありますよ、と世間に伝えたかったのだろう。

前半3本は本格ミステリの作りになっているが、残り4本は人の行動の裏にある謎を解き明かす作品。一編ごとが短いせいもあり、伊集院大介のつかみ所がない物足りなさが薄らいでいる。できれば、謎に悩むところを見せてほしかったと思うのだが。

色々なジャンルの作品を多く生み出してきた作者だが、本格推理小説についても非凡な才能、読者を飽きさせず読ませてしまう才能を持っていたことがわかる短編集。長編だとどうしても作者の癖、というか主張が出てしまうところがあるのだが、少なくともこの短編集にそのような癖は見受けられず、素直に作品を楽しむことができた。