平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大藪春彦『戦士の挽歌(バラード) 第一部 殺しの序曲』(徳間文庫)

戦士の挽歌(バラード) (第1部) (徳間文庫)

戦士の挽歌(バラード) (第1部) (徳間文庫)

薬品メーカー・新東京製薬の腕利きプロパー石川克也は、超人的なまでに鍛え上げた肉体と冷徹な意志力を軽薄なメガネと腰の低い調子のよさで隠していた。熾烈な薬品売り込み合戦のなかで、手段を選ばない石川の作戦は次々と成功していく。悪徳医師には金と女を、女医や看護婦には自慢の肉体を。そして石川は、北多摩で最大規模を誇る安富病院院長と面会のチャンスを掴んだ。医薬業界の荒廃を鋭く抉る会心話題作。(粗筋紹介より引用)

1981年10月、徳間書店より刊行。1700枚の大作、第1巻。



石川克也は、宝石店を経営する両親と妹がいたが、店の支配人に殺されるというつらい過去を持っている。祖父がスカンディナヴィア出身の船員だったため、体格は素晴らしい。父が進駐軍に出入りしていたことから、中学から克也も米軍基地に出入りして射撃を楽しんでいた。今でも米軍関係に知り合いや友人が多い。

今まで様々な社会の腐敗を書いてきた大藪であったが、この作品で取り上げたのは医療業界の腐敗。ここに書かれていることがどこまで真実なのかかはわからないが、それほど外れてはいないだろう。荒廃を生々しく書くとともに、業界の隙間をくぐり抜けて注文を得るとともに、少なからぬ大金を得ていく石川の行動力が素晴らしい。

石川はガンとドライビングの名手であるが、今までの作品にあるような暴力的なシーンはまだ登場しない。これは大藪にとって珍しいことといえる。第一部、まだまだ序曲(プレリュード)である。