平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大藪春彦『戦士の挽歌(バラード) 第二部 快楽都市』(徳間文庫)

戦士の挽歌(バラード) (第2部) (徳間文庫)

戦士の挽歌(バラード) (第2部) (徳間文庫)

 新東京製薬の辣腕プロパー石川克也は、北多摩で最大規模を誇り、医は算術をモットーとする安富病院の理事長・院長親子に外人娘を世話することで大量の薬品納入に成功。そして国立北多摩大付属病院の「新薬採用委員会」の教授連の買収工作も終えた克也は、密かに狙う野望のために人知れず射撃や肉体の鍛錬を怠らなかった。そんな克也に随行員としてパリの国際会議出席の社命が届いた。長篇アクション小説。(粗筋紹介より引用)

 1981年10月、徳間書店より刊行。1700枚の大作、第2巻。



 所々でハンティングシーンや暴力のはけ口を見出すことができるものの、ここでも石川はプロパーとして腰を低くしたまま、虎視眈々とチャンスを狙っている。腐敗しきった医療・薬品業界への怒りを隠したまま。その姿は、トロフィーブックの上位に載る獲物をただひたすら待ち続けるハンターの姿と同じである。石川はじっと待ち続けている。ここまで我慢する主人公も、大藪作品にしては珍しい。買収シーンばかりが続くが、そこへ持っていくシーンは色々とパターンが異なるため、読んでいて飽きることはない。

 珍しいのは、裏の顔を知らない親友が登場するところだろうか。ハンティング仲間である大学医学部病理科に所属する江崎邦夫副手との触れあいは、短いページながらも強烈なイメージを残す。解剖によって臨床医の誤りを指摘する、医療水準の向上に役立つはずの病理医の存在がどこでも煙たがれるという事実に憤慨し、江崎のことを励ます石川の姿は、ちょっとジンと来るものがある。

 怒りに震える野獣は、未だ牙を隠したままである。