平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大藪春彦『凶銃ルーガーP08』(徳間文庫)

一丁のルーガーP08。――戦後、日本に流れてきたこのドイツの誇る自動拳銃には、数々の忌まわしい過去があった。無限の冷たさをたたえ鈍く底光りする銃口、そして凶暴な破壊力を秘めた不気味な銃身――それを手にした者は憑かれたように破滅への道を突っ走った。持ち主は転々とかわったが、みんな前者の轍を踏んでいったのだ。

宿命のルーガーP08を手にしたばかりに運命を狂わせた男たちの壮絶な最後。(粗筋紹介より引用)

1961年8月、徳間書店から刊行された作品の文庫化。



大藪にしては珍しい?連作短編集。ルーガーP08を狂言回しに、男たちが破滅への道を突っ走る姿を生き生きと描いている。男なら誰でも持っている破壊願望が、一丁の銃で表面に出てきて、人生を狂わせる。名銃にはそれだけの力を持っている。銃と車を愛した男、大藪だからこそ、拳銃を真の主人公とした連作が書けるのだろう。いずれの作品にも、関根組という暴力団が関わってくる点も、作品の連作性を重視している部分である。

「暗い星の下に」は、土地と家の金を悪徳不動産屋にパクられ、恋人は黒幕の市長に犯された気弱な男が、ルーガーP08を手に取ったことから狂いだし、復讐への道を辿るまでを書いている。気弱な男から、復讐を貫徹しようとする凶暴な男に一瞬で変わる魔力がよく表されている。

「出迎えた者」では、けちな罪で入っていた刑務所から出てきた男が隠した覚醒剤を巡る闘いが繰り広げられる。ルーガーP08は、前の作品の最後に主人公の手から放れたところを、三下のやくざが拾ったという設定になっている。このやくざは自滅への道を辿らなかったのかという疑問がないこともないが、それを突っ込むのは野暮というものか。それとも力のない男には扱いきれない銃なのか。男の反撃シーンは見所があるが、最後のやり取りなど見破ることができなかったのかという疑問は残る。

「はぐれ狼」はアルバイトばかりの苦学生2人が、新宿のクラブで暴れた際に手に入れたルーガーP08ともう一丁を手に、デパートの売上金を奪おうとする話である。これもまた、拳銃に魅入られた男たちの破滅ロードであり、魔銃の威力をまざまざと見せ付けている。

「穢れたバッジ」は、前作の現場でルーガーP08を拾った若手敏腕警部補が、会社の社長たちが開く賭け麻雀の料亭に押し入り、賭金を強奪する話である。途中からの展開は間抜けかなと思わせるが、野心の強すぎる警察官が堕ちていく姿がリアルである。


大藪の代表作の一つに数えられている作品なのに、今まで読んでいなかった。大藪ファンとしては、情けない限り。
ファンだ、ファンだと叫んでいるが、まだ読んでいない作品が結構ある。ここらで少し読み漁ろうと思っている。