平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大藪春彦『血と背徳の街』(角川文庫)

血と背徳の街 (角川文庫)

血と背徳の街 (角川文庫)

車に轢かれた中年男は、たまたま通りかかって送ることになった津村の車の中で死んだ。事件に巻き込まれながらも、巧妙に立ち回る私立探偵津村雅信。「揉め事は俺に任せろ」。

悪事から足を洗い、妻や子供と平和に暮らしている天城の元に、二人の刑事が訪れる。かつての仲間が出所するから、スパイとして彼に近づけということだった。「前科者」。

強盗の正体は警視庁O分署の警部や刑事たちだった。腐敗だらけの分署にある日、恐喝者が訪れる。「汚れたパトカー」。

総理交代で、政府の庇護が受けられなくなった暴力団大東洋会。武器調達係である小泉は、いずれ起きる闘いのため、まだ政府の締め付けが届いていない沖縄に飛ぶ。「裏切者」。

妻と赤ん坊を人質に取られた警部補の宮部は、誘拐者の要求に従い、デパート売上金の強奪に手を貸す。「苦い札束」。

1960年代に書かれた作品を集めた短編集。



文庫解説の小峯隆夫(懐かしいな、オールナイトニッポン)がいいことを書いている。(「苦い札束」の感想で)「僕はこのときの主人公の怒りの大爆発後の大ドンパチ・ドカーン銃撃破壊戦を楽しみとしている。しかし、短編だとアクション部分がさーこれからだというときに終わってしまう。それだけに不満が残る」。確かにそうだ。アクション部分に限らないことだが、大藪の短編はこれからというときに終わってしまうものが多い。初期短編は特にそうだ。長篇に昇華できる題材を短編に惜しみもなく使うから、そうなるのだろう。それでも本短編集はすっきりと収まったものが多いと思う。

「揉め事は俺に任せろ」に出てくる津村は、『血の来訪者』で登場した津村とは別人である。しかし実際は同一人物といってよいだろう。この探偵のシリーズをもう少し読んでみたかった気もする。

「前科者」は読んでいて哀しくなってくる。一度罪を犯したものが永遠に背負わされる十字架と、前科者は人と思わない警察のやり方は、小説だけとは限らないはず。

「汚れたパトカー」「裏切者」「苦い札束」はいずれも結末にどんでん返しが待っている。特に「汚れたパトカー」の結末は面白い。分署ぐるみの強盗という事件も含め、もう少しページを使ってくれれば傑作になったかもしれない。