平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大藪春彦『ザ・一匹狼(ローンウルフ)』(徳間文庫)

大藪春彦が様々な雑誌で書いた短編を再編集したオリジナル短編集。特に記載はないが、1960年代に書かれたと思われる。

新興暴力団に勢力を奪われそうになった千葉の金融業者は、起死回生の策としてある殺し屋を雇った。殺し屋は頼まれた仕事を次々と片付ける。「独り狼」。昔なら中編といえるボリュームだが、連載作品が途中で打ち切られたものではないだろうか。結末の付け方がやや急展開。主人公のキャラクターはありきたり。大藪らしい作品としか言い様がない。

ボクシングの元大学チャンピョンであった主人公は、膝の神経痛が原因で、今はクラブのボーイである。客がヤクを打つところを見てしまった彼は、我慢できなくなり、客のヤクザを叩きのめし、拳銃とヤクを奪う。「俺を殺る気か」。若者の暴走ものであるが、ただの若者がここまでうまく立ち回るのかと思うとかなり疑問。

自衛隊崩れの陸送屋は、ヤクザがヘロインを強奪する現場に偶然出くわし、まんまとヘロインを奪い取るのだが。「陸送屋家業」。短いが、起承転結がわりとしっかりしている小品。

八百長専門キックボクサーであった星野は、稼いだ金を全てレーシングに注いでいた。メーカーのドライバーテストに不採用となった今は、しがないトラック運転手であった。アメリカからの補給物質の中から煙草のカートンを仲間とともにくすねた星野であったが、その煙草は実はマリファナだった。「怒れる獣の叫び」。輸送物資に隠された意外な真実には驚かされるが、もう少しページがあった方がよかったか。短編で終わらせるには、ややもったいない素材である。

カモ猟の途中、近づいてきた友人の船にあったのは、猟銃で頭を吹っ飛ばされた死体であった。「濃霧」。本短編集で一番短い作品だが、辛みの効いたベスト。霧の湖という舞台と、結末の余韻が心に残る。

パクリ屋の新田と、画家の神田は義兄弟のような猟友であった。新田が長い海外旅行から帰ってきたとき、新田の妻と神田の間に何かがあったことを感じた。「猟友」。猟のシーンはさすが。それ以外は大藪にしては珍しい展開で面白い。

以前の悪い仲間に脅されて、一緒に宝石店を強盗することになったが、店の中は既に荒らされた後で、しかも死体が転がっていた。さらにヤクザに脅されて、警察からの逃亡を手伝わされることになる。「自爆」。事件に巻き込まれるパターンは大藪作品に結構あるが、主人公が悲壮なままという展開は珍しい。

学生時代は演劇部で、同人雑誌も作っていたが、愛する女と別れさせられた後はヤクザになっていた。昔の文学仲間のところで、女が死んだことを知らされる。「雨の露地で」。若者が一つのきっかけから転落する様子がじっくりと書かれている。こういうのは珍しいのではないか。やるせない自爆への道がもの悲しい。

マリファナ乱交パーティの客たちを襲い、金や宝石を奪った二人組。彼らの目的は金だけではなかった。「野獣の街」。大藪の暴力描写は残酷なことが多いが、本作品は特に凄惨を極める。動機は全く描かれず、ひたすら犯行シーンが続く凄まじさである。ここまで暴力的な作品も珍しい。