- 作者: ヒキタクニオ
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/11/07
- メディア: 文庫
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2005年9月、文藝春秋より単行本で刊行。翌年、第8回大藪春彦賞を受賞。2008年11月、文庫化。
情けないことながら、ヒキタクニオという作家を本作で初めて知った。大藪賞を受賞していなかったら、手に取ることもなかっただろう。読み終わってみると、どことなく奇妙な感じの小説だった。これのどこが大藪賞なのだろう。ただ、途中まで面白かったことは間違いない。
天才・天願圭一郎を、プロである「消し屋」将司がいかにして自殺まで追い込むか。肉体的暴力を取るのでは無く、あくまで心理的に相手を追い詰めていく。その駆け引きは非情で、読んでいてどうなるのだろうと思わせる。しかし、最初に語られた、厳重に警護されている中で将司がどのようにしてヤクザ総長を殺害するのか、そして遺体をどのように処分するのかという展開が面白く、それでいて圭一郎との話とほとんど関連がないため、どこかぶつ切りな物語を二つ見せられた印象を与えているところは残念。
さらに、途中で挟まれる天願の生まれから成長までのストーリーがかなり長く、かつこれもまた面白いので、自殺に追い込むまでの駆け引きがぼけてしまった印象を受ける。これだったら、天願圭一郎を主人公にした物語を一冊書いた方が良かったのではないか。
この「消し屋」は、過去作品『凶気の桜』『消し屋A』にそれぞれ別名で登場しているという。さらに蘭子も登場しているらしい。もし過去作品を読んでいれば、評価はもう少し違ったのかも知れない。
それぞれの場面は面白いのだが、つながりが悪く、本筋よりも脇道ばかりが目立つ作品。うーん、これがどうして大藪賞だったのだろう。当時の選評を読んでみたい。