平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大藪春彦『熱き逃亡者』(角川文庫)

熱き逃亡者 (角川文庫)

熱き逃亡者 (角川文庫)

拾ってもらった組長を殺害し、情婦と駆け落ち。しかも金庫から2億円の現ナマを持ち出した片山。逃亡の果ての結末は。「雨よ、もっと降ってくれ」。

博打で一千万円以上の借金を背負っている安西一郎。羽田空港の貨物搭載係として働いて4ヶ月目。ジェット機墜落事故のどさくさに紛れ、ダイヤの原石やドルを奪って大阪に逃走した。しかし、追っ手は少しずつ迫っていた。「負け犬」。

親の遺産を先取りして航空会社を作ったが、客が来ずに倒産寸前だった北島のもとに黒川という客が来た。ところが黒川は、ジェット・コマンダーに載っている途中で運転手の北島を眠らせてしまう。目を覚ました北村が見たのは、南の島で王となっている黒川だった。「人間狩り」。

惚れた女のために組を抜けてタクシー運転手になった沖田。しかし元は中堅幹部で、しかもヘロインを持ち出していた沖田を組が見逃すはずもなかった。「逃亡者」。

金に不自由せず、人生に退屈しきっていた大月昌也。バカにされた女を見返すため、特訓を重ねクラブ・レースで優勝することができたが、女が誘拐されたことを知る。さらに昌也自身も誘拐され、連れてこられた場所は。「女狩り」。

拳銃を持った二人の男が街に入った。その目的は。「拷問」。

自衛隊上がりの警備員杉田は、現金輸送車を運転中、強盗たちに襲われ、現金を奪われる。そのとき、犯人たちはなぜか杉田のことを「仲間」と呼んだ。そのため、警察に連れていかれたが、証拠不十分で釈放される。警備会社を解雇された杉田は、復讐を誓った。中編「切札は俺だ」。

1960年代に書かれた作品を集めた短編集。



大藪初期作品集。後半の作品を除き、いずれも逃亡する男たちを主人公にしている。大藪作品といえばやはり追いつめる側、計画を冷静に履行する立場の男たちが主人公であることが多いので、このような逃亡する男たちというのは珍しいシチュエーションである。しかし、追いつめられた男たちが最後に放つエネルギーは、他の大藪主人公と変わらない輝きを持つ。むしろ追いつめられた分、爆発するパワーは今までの数倍となっている。

例外といえば「負け犬」の主人公、安西か。安西は負けばかりの人生を徹底的に歩んでいる。その人生が最後まで変わることはない。大藪らしからぬ一生を辿る、可哀相な人物である。

「人間狩り」「女狩り」は島での人間ハントもの。今の日本では考えられない設定であるが、戦後すぐならこういう設定も十分リアリティがあったのだろう。

「拷問」は大藪らしいオチが効いた作品。ただ、これも今の日本では実行不可能であることを付記しておく。

「切札は俺だ」は大藪流正調ハードボイルド。やられたら、それ以上のことをやり返すという姿は、初期〜中期の大藪作品によく見られる姿である。順調に行きすぎるところがかえって不満か。中編の限界だろう。