平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大藪春彦『ザ・特殊攻撃隊(コマンドー)』(徳間文庫)

ザ・特殊攻撃隊(コマンドー) (徳間文庫)

ザ・特殊攻撃隊(コマンドー) (徳間文庫)

大藪春彦が様々な雑誌で書いた短編を再編集したオリジナル短編集。ゲリラや工作員を主人公としたものばかりである。

「C・I・Aの暗殺者を消せ」「みな殺しの銃弾」「連隊旗奪還作戦」「“紅軍派”大使拉致す」は『野獣死すべし』以降書き続けられた伊達邦彦ものの短編。英国外務省情報部破壊活動班員時代の作品2編と、情報部を辞めた後の2編である。はっきり言って、このころの伊達邦彦ものは面白くない。伊達邦彦が主人公である必然性もないし、描かれているその姿も精彩を欠く。それでも昔は喜んで読んでいたな。

密輸の仕事とだまされた男たちは韓国に連れていかれ、ヘロインの密輸を手伝わされることになる。しかし本当のねらいは別のところにあった。「瀕死の38度線」。謀略ものではあるが、ページが足りないせいか作者らしい怒りの視点が少ない。

「ジャングルの豹」は南ベトナム民族解放戦線、いわゆるヴェトコンの戦士であるホワン・ミン。ミニ短編5つをまとめたもので、構成そのものが珍しい。ヴェトコン側から描いた日本人の作品は少ないであろうから、もっと書き続けてほしかった。

「われ、サイゴン米大使館を占領せり」はタイトル通り、解放戦線が大使館を占領する話。前の作品とともにベトコン側から描いた作品である。権力による蹂躙に怒りを覚える大藪なら、ベトナム戦争ものはもっと掘り下げることができたに違いない。