平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大藪春彦『ヘッド・ハンター』(角川文庫)

ハンティングでゲームを倒し、レコード・ブックに載ること。杉田の目的はそれしかない。杉田淳、34歳。アフリカ白人政権の傭兵出身である。法規などくそ食らえ。大自然における動物たちとの闘いは、誰にも邪魔はさせない。杉田はアラスカでムースやキャリブーなどを。そして目標を達成した杉田は重労働で金を稼ぎ、ニュージーランドに飛ぶ。

野性時代」1981年2月、1982年1〜6月号に掲載。



大藪春彦とハンティングは切り離すことのできない関係にあるが、ハンティングのみを1冊にまとまるまで描いたのは初めて。途中にアクションシーンはあるものの、それはおまけでしかない。杉田はたった一人で、ゲームを倒すために、ひたすら闘い続ける。大藪主人公のほとんどはストイックな性格を持っているが、ストイシズムをここまで突き詰めた作品も珍しい。

杉田という人物の描写はあるものの、ほとんどはハンティングにページが割かれる。大自然の過酷な描写。本能で生き延びようとする動物たちとの闘い。生き延びるため、そして闘いに勝つための装備に対する、まるで恋人を紹介するかのような詳細なデータ。大藪春彦自身の経験から産み出されたハンティングシーンは、読者である我々をリアルな世界へ招待する。カタログと数字をただ並べるだけでは得られない、真実がそこにある。

大藪文学の、一つの到達点である。


大藪ファンだけど、後期の作品はあまり読んでいない。頑張って読まないと。