平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大沢在昌『B・D・T 掟の街』(双葉ノベルス)

不法在住外人の急増が無視できない状態となった近未来の東京。当局の外人狩りも限界となり、外国人を自国人として受け入れる「新外国人法」が制定されたが、そのため混血児の異常なベビーブームを招いた。さらに、親たちから捨てられた混血児たちは、“ホープレス・チャイルド”と呼ばれて、スラム街に屯し、暴力団の予備軍、地下駐車場に巣食う犯罪集団と化した。私立探偵ヨヨギ・ケンは失踪したホープレス出身の歌手の捜査を引き受けたことから思わぬ争いに巻き込まれた……。(粗筋紹介より引用)

1993年7月、双葉社から発行された作品のノベルス化。



新宿鮫』で協会賞や吉川英治文学新人賞を受賞して、「永久初版作家」から抜け出した大沢がのっていた頃に書かれた作品。21世紀中頃、ホープレスたちが巣食うスラム街と化した東京を舞台にしている。近未来を舞台にするということは、読者がそれなりに想像しやすく、それでいて自由度のきく設定をすることができるから、作品世界を作る上で作者にとっては有利に働くだろうが、舞台そのものにリアリティを持たせなければならないため、作者の腕が問われるところだ。本作品に限って言えば、作者はそのハードルを簡単にクリアしている。簡潔な言葉で、そして物語の流れを削ぐことなく、舞台設定を明瞭に説明し、読者の意識を21世紀の東京まで引っ張っている。この舞台だからこそ映える主人公。近未来を舞台にしたからこそ成立するハードボイルド。素晴らしい出来といってよい。いつもなら大風呂敷を広げすぎて、収拾するのに苦労する結末についても、今回はうまくクリアしている。大沢ならではの傑作だろう。

近年の大沢は、設定を広げすぎて、結末に苦労したり、収拾しきれないまま終わっているというケースが多い。それにぶっちゃけて言ってしまえば、余計なことを書きすぎてどんどん長くなっている。さすがと思わせる作品を書き続けているが、この頃の輝きを取り戻して欲しい。