- 作者: 大沢在昌
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 1995/08
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (3件) を見る
1993年7月、双葉社から発行された作品のノベルス化。
『新宿鮫』で協会賞や吉川英治文学新人賞を受賞して、「永久初版作家」から抜け出した大沢がのっていた頃に書かれた作品。21世紀中頃、ホープレスたちが巣食うスラム街と化した東京を舞台にしている。近未来を舞台にするということは、読者がそれなりに想像しやすく、それでいて自由度のきく設定をすることができるから、作品世界を作る上で作者にとっては有利に働くだろうが、舞台そのものにリアリティを持たせなければならないため、作者の腕が問われるところだ。本作品に限って言えば、作者はそのハードルを簡単にクリアしている。簡潔な言葉で、そして物語の流れを削ぐことなく、舞台設定を明瞭に説明し、読者の意識を21世紀の東京まで引っ張っている。この舞台だからこそ映える主人公。近未来を舞台にしたからこそ成立するハードボイルド。素晴らしい出来といってよい。いつもなら大風呂敷を広げすぎて、収拾するのに苦労する結末についても、今回はうまくクリアしている。大沢ならではの傑作だろう。
近年の大沢は、設定を広げすぎて、結末に苦労したり、収拾しきれないまま終わっているというケースが多い。それにぶっちゃけて言ってしまえば、余計なことを書きすぎてどんどん長くなっている。さすがと思わせる作品を書き続けているが、この頃の輝きを取り戻して欲しい。