平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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小杉健治『父と子の旅路』(双葉文庫)

父と子の旅路 (双葉文庫)

父と子の旅路 (双葉文庫)

「君には難問だが、逃げずに立ち向かうんだ」弁護士の浅利祐介は所長の澤田からそう告げられた。その難問とは、祐介の両親を惨殺した死刑囚の再審を担当するという酷いものだった。その死刑囚は唯一生き残った祐介の行く末をことのほか案じていたという。それが何を意味するのか。驚倒の事実が……。(粗筋紹介より引用)

2003年1月、双葉社より刊行された作品の文庫化。



ジャンルとしてはごくわずかだろうが、再審ものの一冊。しかも死刑囚とはなかなか難しい課題である。警察・検察といった機関はもちろん、裁判所も再審の扉を開くことを極端に嫌っている。法廷ものを得意とする作者のことだから、それぐらいのことは百も承知だろう。ということで、その辺はうまくカバーできるように書いている。というか、現在の設定をほぼ無視しているというか(笑)。

いつの時代なのかわからないが、執行の決定は三日前に伝えられているし、集団処遇でもやっているかのような「送別会」まで開かれているし。しかも執行決定の事実が部外者の、しかも再審を担当しようとしている弁護士にまでいつの間にか伝わっているという。今ではとてもとても考えられない話だ。まあ、ちょっと前までだったら、訳ありそうな死刑囚の執行なんかはなかったが、最近はそうともいえないので、執行決定の事実そのものはまだわからないでもないが。最後のスピーディーな流れは、お役所仕事とはとても思えないぐらいの素早さ。

その辺の不可思議設定は置いておくとしたら、この作品はそれなりに感動できる仕上がりである。無実なはずの死刑囚が、なぜ口を閉ざしているのか。結局謎といえる部分はこの一点にかかっているのだが、これはうまいと思った。

まあ、ご都合設定丸出しながら、読み終わってみれば素直に感動したね。お涙ちょうだいの物語としてはよくできている。