平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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森村誠一『致死海流』(光文社 カッパノベルス)

致死海流

致死海流



犬吠埼沖に漂う若い女性の死体――着衣の状況、潮流から彼女は八丈島航路「フリージア丸」の乗客・宇根沢望と判明した。一方、八丈富士登山中、行方不明となった岩井輝子は絞殺死体で発見された。彼女も「フリージア丸」に乗船していた! しかも、同行の男は単身、帰京している。宇根沢と岩井の接点を求めた捜査陣は、二人のユースホステル会員証をもとに、和歌山県勝浦にとんだ。そこに残された宿泊名簿から、掲示は重大な手がかりをつかんだが……。アリバイと密室のトリックに真っ正面から取り組んだ著者久々の書き下ろし本格推理!(粗筋紹介より引用)

1978年、カッパノベルスから発売された、著者5年ぶりの書き下ろし作品。



森村誠一は今でこそ色々なタイプの小説を書いているが、乱歩賞受賞作『高層の視角』から長く本格推理小説を書き続けていた作家である。本書はそんな森村誠一が久しぶりに書き下ろした本格長編推理小説であり、密室とアリバイトリックが立ちはだかると書かれているから結構期待を持って読んでみた。その結果はというと、どうも今ひとつという感は否めない。

物語の途中で解明される密室トリックは単純でしかも簡単に警察にわかってしまうのが期待はずれだが、アリバイトリックはそれなりに考え抜かれたものである。警察という組織集団の中で、様々な刑事たちが賢明に事件に取り組む姿も、今まで氏が書いてきた様々な本格推理小説の姿と変わらない。では、何が気に入らないのか。それがわからないから苛立たしいのだが、読んでいて退屈だったことは事実だ。読者を引きつけるアルファが足りなかった。それは謎解きのカタルシスだろうか。そう思うしかない。

書き下ろしで、本格推理小説の形にこだわった分、小説の面白さが削られてしまった。結果として、本格推理小説の魅力も失われてしまった。そんな気がする作品である。



ただこれ、『森村誠一読本』で傑作と呼ばれた作品らしい。本が手元にないので、後日確認しよう。昔誰かが、これは傑作だと評した記憶がある。どこがよかったのかなぁ……。