平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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東川篤哉『謎解きはディナーのあとで 2』(小学館)

謎解きはディナーのあとで 2

謎解きはディナーのあとで 2

国立署の新米刑事で、正体は世界に名だたるコングロマリット・宝生グループの一人娘である宝生麗子。上司であり、よく壊れる国産車メーカー・風祭モータースの御曹司であることを自慢する風祭警部。二人が遭遇する事件の謎を、麗子から話を聞いただけで解いてしまう、毒舌執事・影山。三人の活躍を描いたシリーズ第二弾。

女性が空きビルの一室で殺害された。元恋人が有力な容疑者として浮かび上がるのだが、被害者と容疑者に遭遇したという複数の証言からアリバイが成立していた。「アリバイをご所望でございますか」。

元工場倉庫を改造した部屋に済んでいた若い女性が、風呂場のバスタブで溺死した。クローゼットからは、何故かたくさんの帽子が無くなっていた。「殺しの際は帽子をお忘れなく」。

いつもの刑事姿ではなく、赤いドレスと緑色の宝石で着飾った麗子は、友人の父親の還暦パーティに出席した。友人たちとの話に花を咲かせていたが、ホテルの屋上で知り合いの女性が殴られる。病院に運ばれる寸前、「赤いドレスで緑色の宝石を付けた、よく知らない若い女に襲われた」と麗子に告げた。「殺意のパーティにようこそ」。

雪が積もった、クリスマスイブの朝。予定があるという影山に怒り、初めてバスで出勤したはいいが、道に迷った麗子は、殺人事件に遭遇する。しかも、自転車の轍と発見者の足跡しかない、雪の中の密室だった。「聖なる夜に密室はいかが」。

家電量販店チェーンを経営する花柳家は、当主が交通事故で亡くなり、愛人は出てくるわ、遺産相続でもめるわというスキャンダル続き。とうとう姪が刃物で殺害され、しかも自慢の長い黒髪がハサミで切られ、暖炉で燃やされていた。「髪は殺人犯の命でございます」。

著名な画家が、自宅のアトリエで殺害された。現場にはハシゴが倒れていただけの密室状態。警察の捜査では何も見つからなかったが、麗子は影山とともに夜の現場へ捜査に乗り出す。「完全な密室などございません」。

『きらら』2011年1月号から10月号まで連載された短編5本に、書き下ろしの1本を追加した短編集。2011年10月刊行。



前作は本屋大賞を受賞したミリオンセラーの第二弾。ちょうど桜井翔・北川景子でドラマ化されているということもあり、売るタイミングとしては最高だろう。タイミングが合ったとはいえ、出版社の戦略の勝利だね、こればかりは。

売れた作品のシリーズものとなると、大抵は第1作よりはレベルが落ちるものというのが相場だが、本作の場合は相変わらずの東川クリオティと言ったところ。笑いを重ねながらも、しっかりと推理を見せるという点では、魔夜峰夫と双璧である(違うか)。ただ作中で本人が嘆いたように、安楽椅子探偵の位置にあった影山が動的な活動を見せるといった点については、少々ネタ切れの部分があるのかなと思ってしまうところもある。

個人的には、「アリバイをご所望でございますか」が好き。殺人の動機やトリック、そしてオチまでがしっかりと一本
の糸でつながっている。「髪は殺人犯の命でございます」の推理における論理性もなかなか。

「殺意のパーティにようこそ」について言えば、藤原宰太郎の某推理クイズを思い出してしまったと言っておこう(まあ、それも元々ものネタがあるのだろうが)。「聖なる夜に密室はいかが」の密室トリックは少々苦しい。

書き下ろしの「完全な密室などございません」について言えば、テレビ向けに作られたような気がしないでもない。ただ、最後は麗子が言うように風祭警部が殉職した方がよかったんじゃないか(いや、違う)。

個々で見ていくと粗もあるのだが、キャラクターや会話でそれが緩和されている点も見逃せない。どぎついシーンがあるわけでもないので、小学校高学年ぐらいからでも楽しむことができるだろう。ってことは、嵐ファンの小中学生も読むから、さらに売れ行きが伸びるかな。ただ、個人的には烏賊川市シリーズの馬鹿馬鹿しさの方が好きだったりする。

どうでもいいんだけれど、麗子と書くとお嬢様に見えてくるのは何故なんだろう。やっぱり大原麗子? それとも白鳥麗子? もしかして秋本麗子?