平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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夏樹静子『東京駅で消えた』(新潮文庫)

東京駅で消えた (新潮文庫)

東京駅で消えた (新潮文庫)

大手建設会社部長・曽根寛の足どりは、帰宅途中の東京駅で見かけられたのを最後に、消えた。無断外泊などしたこともない曽根の行方を、妻と部下は必死に捜すが、やがて駅の霊安室で、死体となって発見された。続いて構内のステーション・ホテルの非常階段で若い女性の死体が……。二人の死に共通点はあるか? 犯人は東京駅に詳しい人物なのか。捜査陣をあざ笑うように第三の死体が発見される。連続殺人の裏に潜む意外な背景。(粗筋紹介より引用、一部加筆)。

1992年、中央公論社より発売された単行本の文庫化。



一見接点のない人物が東京駅のあまり知られざるところで殺害される。そして調べていくうちに、意外な接点が発見される。わりとありきたりなパターンの連続殺人事件ものだが、東京駅という舞台をよく調べており、隠された動機といえるものの舞台も含め、なかなかよく取材されていると感心する。

しかも最後でもう一つトリックを仕掛けるのには感心した。感心はしたのだが、物語の流れから考えると、ちょっと違和感のあるトリックである。本格ミステリならではのトリックだが、現実的な筆致で描かれている作品には似合わない。こうして考えると、本格ミステリに出てくるトリックは、現実的ではない、ファンタジーの世界だからこそ似合うのだろう。

このあたりのことはいつか書いてみたいと思うのだが、そうなると笠井潔を読み返す必要があるので、当分は書かないに違いない(文法が違うぞ)。