平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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貴志裕介『硝子のハンマー』(角川文庫)

硝子のハンマー (角川文庫)

硝子のハンマー (角川文庫)

日曜日の昼下がり、株式上場を間近に控えた介護サービス会社で、社長の撲殺死体が発見された。エレベーターには暗証番号、廊下には監視カメラ、窓には防弾ガラス。オフィスは厳重なセキュリティを誇っていた。監視カメラには誰も映っておらず、続き扉の向こう側で仮眠をとっていた専務が逮捕されて……。弁護士・青砥純子と防犯コンサルタント・榎本径のコンビが、難攻不落の密室の謎に挑む。日本推理作家協会賞受賞作。(粗筋紹介より引用)

2004年4月、角川書店より単行本刊行。2007年10月、文庫化。



貴志裕介が初めて本格ミステリに挑んだ一作。まさに難攻不落と言える密室トリックであり、それでいてトリックに使ってくださいと言わんばかりの介護ロボットが部屋の中に控えているのだから、本格ミステリファンなら思わず挑もうと思ってしまうもの。とはいえ、このトリックは非常に難解であり、さらに言えば動機の方から解き明かすのはまず不可能。解決のトリック以外に捨てトリックも複数用意するあたりも、作者は用意周到。どこまで作者は調べたのだろうと、本当に感心する。

それに探偵役の設定も秀逸。特に防犯コンサルタント、榎本径のキャラクターは面白い。正義感溢れる青砥純子とのやり取りが際立っている。

本作品は「I 見えない殺人者」と「? 死のコンビネーション」の二部に分かれており、?では犯人側の視点より生い立ちから犯行に手を染め、犯行が榎本たちにばれるまでが描かれている。社会的問題も含まれており、前半の介護の話も含め、社会派ミステリの要素も含まれているのも面白い。ただその分、非常に話が長くなってだれてしまった感は否めない。特に榎本がトリックに思いついた後、二部で犯人の話に移ってしまうのだから、気になって仕方がなかった。もちろん二部も読める内容なのだが、ちょっと勿体ない気がする。

ホラーやSF、サスペンスなど多彩な作風の作者だが、本格ミステリも書けることを示した一作。シリーズとして続いているのは、非常に楽しみである。