平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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小杉健治『死者の威嚇』(講談社文庫)

死者の威嚇 (講談社文庫)

死者の威嚇 (講談社文庫)

昭和57年9月――東京・荒川の河川敷で、関東大震災直後に故なく虐殺された朝鮮人を慰霊するための遺骨発掘作業が行なわれた。だが、遺骨は見つからず、3年後、別の白骨死体が隅田公園で発見された。身元捜査が開始される……。過去と現在が交錯する二重、三重の深い謎を描く、本格社会派ミステリー。(粗筋紹介より引用)

1986年6月、講談社より単行本刊行。1989年7月、講談社文庫化。



関東大震災直後の朝鮮人虐殺事件と、現代の殺人事件を絡めた社会派ミステリ。小杉健治が傑作を連発していた時期に書かれた一冊であり、非常に読みごたえがある。

朝鮮人虐殺はさすがに有名な事実だろうが、方言のせいで朝鮮人に間違われ、東北出身の人たちが虐殺されていたとは知らなかった。人間の狂気というのは恐ろしいが、それ以上に恐ろしいのは、人の偏見である。そういった事実にスポットを当てつつ、現代の事件と絡めた点は非常に巧い。その絡ませ方も意外性のあるもの。犯行がばれてしまう恐れがあるのに、そういう行動を取ってしまうところも非常に納得してしまう。

登場人物の造形も悪くない。別れた恋人を吹っ切ろうとしても、いまだに心を動かされてしまうヒロインがあまりにも哀しすぎる。ただ、現代のドライな女性に比べると、あまりにも男視点で書かれているような気がするが、執筆当時のことを考えると仕方がないところか。

本書の残念なところは、現代の殺人事件パート。謎自体は悪くないのだが、トリックがあまりにも雑すぎる。犯人が馬脚を現す点は悪くないので、アリバイトリックにもう少し力を入れてくれたら、傑作になっていただろう。