平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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石持浅海『扉は閉ざされたまま』(祥伝社 ノン・ノベル)

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

久しぶりに開かれる大学の同窓会。成城の高級ペンションに七人の旧友が集まった。「あそこなら完璧な密室をつくることができる……」当日、伏見亮輔は客室で事故を装って後輩の新山を殺害、外部からは入室できないように現場を閉ざした。何かの事故か? 部屋の外で安否を気遣う友人たち。自殺説さえ浮上し、犯行は計画通り成功したかにみえた。しかし、参加者のひとり碓氷優佳だけは疑問を抱く。緻密な偽装工作の齟齬をひとつひとつ解いていく優佳。開かない扉を前に、ふたりの息詰まる頭脳戦が始まった……。(粗筋紹介より引用)



人工的につくられた密閉状況の中における本格ミステリを得意とする石持浅海。今回の舞台は高級ペンションである。しかも倒叙もの。近年、本格ミステリで普通の倒叙ものという形式はちょっと思いつかない。

同窓会という設定が、特に我々の年代に魅力的である。旧友たちが繰り広げる会話は、くすぐったくも懐かしい。昔の友人が集まると、こういう展開になるよなと思ってしまう。こういうことを考えること自体、年寄りになった証拠なのだろうか。

鍵のかかった部屋。通常ならぶち破って入るはずだが、そういうことができない状況下での事件。そして、閉ざされた扉を前に繰り広げられる頭脳戦。こういう舞台をよく考え出せるものだと感心してしまう。開けられるのに開けられないというジレンマと推理の戦いが見事にマッチしている。中で繰り広げられる推理も、犯人が内面で簡単に肯定してしまうこともあり、すんなりと受け入れることができる。

2005年を代表する本格ミステリの一冊であり、倒叙ものの歴史に名前を残す一冊になるだろう。

ただ、殺人を犯す動機についていえば、この作品の大きな傷である。確かに一応納得できる書き方にはなっているが、やはりこの程度の動機で、頭脳明晰な人間が殺人を犯すというのは、読む人にとっては受け入れがたいものがあるだろう。どんな高潔な理由があろうとも、殺人は殺人である。犯人はその罪を一生背負うべきであるはずなのに、いっさいそのことに触れられないというのは、やはり納得いかないのである。そんな考えは小説だから、ミステリだからナンセンスである、という考え方もあるだろう。私はそういう考え方があることを否定はしない。だがしかし、と思わず言ってしまいたくなるのである。本格ミステリは所詮ゲームである、ミステリの人物は駒でかまわない……とは思いたくない。