平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

和久峻三『雨月荘殺人事件―公判調書ファイル・ミステリー』(双葉文庫 日本推理作家協会賞受賞作全集第61巻)

 美貌の資産家が自己所有の高級旅館で謎の首つり死体として発見され、夫が逮捕された…。殺人および死体遺棄をめぐる裁判記録ファイルを、元裁判官が講師をつとめる「市民セミナー」の講義に沿って読みすすめる。弁護士作家和久峻三が法律知識の全てを注ぎこんだ究極の裁判ミステリー。「市民セミナー」篇「公判調書」篇の2部からなる。(粗筋紹介より引用)

 1988年、函入り2分冊の形で中央公論社より発売。1989年、第42回日本推理作家協会賞長編賞を受賞。



 噂には聞いていたが、こういう形で作られていたんだ……とはいえ、本書は一部を調書形式にし、残りは手書きではなく活字で印刷された形の読み物となっている。しかも二分冊ではない。あの形で文庫化するには手間と費用がかかるから仕方のない措置かもしれないが、中公文庫ではきちんと二分冊にしているのだから、できるかぎり近い形で出版して欲しかったな。『アリスの国の殺人』でもイラストが収録されなかったのが不満だった。双葉のこの全集そのものは意義があるものとして高く評価したいが、やはり本の形態なんかもできる限り元版に近づけてほしかったというのが本音だ。

 ただ、実際のところは、文庫本一冊の方が読みやすいんじゃないかとも思っているのだが。

 肝心な中身の方だが、公判調書ファイルの形にしただけの作品ではなく、最後はミステリとして仕上がっているのがさすがといえる作品。裁判の進行が理解でき、しかも読者を引き込むだけの物語を提供してくれるのは、長年ベストセラー作家として活躍してきた作者だからできることだろう。

 ただこの結末、本当の裁判だったらこんな簡単に物事が進むとは思えないけどね。弁護士でもある作者だから、そんなことは十分わかってのこの形なのだろうが。