昭和ミステリ秘宝 火の接吻―キス・オブ・ファイア (扶桑社文庫)
- 作者: 戸川昌子
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2000/12
- メディア: 文庫
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1984年、講談社ノベルスの乱歩賞スペシャルとして書き下ろしされた作品。
放火魔、刑事、消防員。三人の視点で語られる物語は、時々微妙に重なり合い、そして微妙に離れながら進行していく。三人の物語はいつしかクロスし、そしてまた分かれた道を歩いていく。三人がクロスする地点、それが悲劇のスタートであり、かつエンディングでもあった。この悲劇を演出したのはいったい誰か。三人と、三人に絡む女性の想いが交錯しながら、物語は結末まで淀みなく流れていく。
三人の人生に罠が仕掛けられている。読者もそこに罠があるとわかっていながら、いつしか作者の罠にはまっていく。後半から急転し、目の前に襲い掛かってくる事件の数々。その全てを見切ることは不可能であり、読者は結末まで一気に読み進めたとき、初めて作者の罠の全貌を知ることになるだろう。そしてまた、作者の類まれなる才能も。
登場人物がこれだけ限定されているのに、作者の罠にかかってしまうのはなぜか。読者もまた、火に魅せられるのだろうか。
名前のみ知っていて、読めなかった作品は数多くあるのだが、本作もそんな一冊。今更ながら昭和ミステリ秘宝とはすばらしい企画だったと思う。