平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

斎藤純『百万ドルの幻聴』(新潮文庫)

  そのフレーズを耳にした瞬間、誰もが息をのんだ。リオの片隅で歌う黒人少年=ルーシオ。奇跡の歌声を、ビデオが捉えていた。新人女性ディレクターは、歴戦の音の狩人たちと闘いつつ、少年のデビューに向けて動く。だが、ルーシオは忽然と足跡を絶った……。次第に明らかになる音楽業界の闇。すべての答えは、セナの待つF1グランプリに。ノンストップ・ミュージック・サスペンス!(粗筋紹介より引用)
 1993年12月、新潮社より書き下ろし単行本刊行。2000年9月、文庫化。

 

 実力がありながらも今一つ評価されなかったな、と思う作家、斎藤純。これは読んだつもりでいたのに実は読んでおらず、段ボールから出てきたので慌てて読むことにした。
 小規模だが質が高いアーティストが所属するウェザーレコードの冬木佳江は、制作部に移りブラジルの少年ルーシオを担当するディレクターとなった。ルーシオが歌っているところをたまたまテレビの夕方に放送されたニュース番組が捉えていた。取材ビデオから歌を抽出し、レコード化する。佳江はルーシオのデビューに向けて本人を探し出そうとブラジルに渡るが、ルーシオの足跡が消されていた。
 斎藤純にしては珍しい女性が主人公。ただ音楽の知識をふんだんに生かしたサスペンス作品であり、斎藤純ならではのセンチメンタルさも十分盛り込まれている。そしてまた、最後の舞台がモナコ。スピード感あふれるF1グランプリを背景に、ルーシオをめぐる最後の謎が解き明かされる。
 ルーシオをめぐる謎。新人女性ディレクターとしてレコードを世に広めるべく、戦い続ける冬木佳江。タフさを売りにしたハードボイルドとは異なるが、それでも斎藤純ならではのハードボイルドなのだろう。最後はかなりドタバタしたところが残念。特にセナとか実名を出して物語に巻き込んでもよかったのだろうか。ちょっと暴走しすぎた感がある。
 それにしてもエピローグは……賛否別れそうな終わり方だと思ったのは私だけか。

エリス・ピーターズ『雪と毒杯』(創元推理文庫)

雪と毒杯 (創元推理文庫)

雪と毒杯 (創元推理文庫)

 

 クリスマスが迫るウィーンで、彼らは欧州のオペラ界に君臨してきた歌姫の最期を看取った。チャーター機でロンドンへの帰途に着くが、悪天候で北チロルの雪山に不時着してしまう。パイロットを含め八人がたどり着いたのは、小さな山村――しかし雪で外部とは隔絶されていた。ひとまず小体なホテルに落ち着いたものの、歌姫の遺産をめぐって緊張感は増すばかり。とうとう弁護士が遺言状を読みあげることになったが、その内容は予想もしないものだった。そしてついに事件が――。修道士カドフェル・シリーズの巨匠による、本邦初訳の本格ミステリ!(粗筋紹介より引用)
 1960年、英コリンズ社のクライムクラブ叢書の一冊として刊行。ピータース名義の2冊目。2017年9月、邦訳刊行。

 

 修道士カドフェル・シリーズで世界的に有名な作者の、どちらかと言えば初期の長編。カドフェル・シリーズはかなり昔に1、2冊読んで以来なので、ほとんど初めて。
 既に1960年なのに、雪に閉ざされたクローズドサークルミステリ。ずいぶん古めかしい設定と思いながらも、語り口が達者なのですいすい読めた。誰が謎解き役になるのかわからない部分が、当時としてはちょっと新しいのか。それ以外の部分はミステリとしては古臭い造りだった。作者がごまかす気がないのかわかりやすい書き方をしているので、勘のいいひとなら犯人や動機は想像がつきやすいはず。
 むしろ恋愛小説だよね、これ。そちらのイメージのほうが強かった。その分、飽きずに読むことはできたが。
 本格ミステリが衰退し、現代ミステリの表層をまとうようになったころの作品。今読んでもそれほど古臭く感じないメロドラマ。謎解きサスペンスの要素を加味しましたってところか。

牧村泉『邪光』(幻冬舎)

邪光

邪光

  • 作者:牧村 泉
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2003/01
  • メディア: 単行本
 

 猟奇的な大量殺人事件で世間を震撼させた赤光宝霊会。教祖の久江は<邪光>を放つ者は粛正されなければならないという教義に基づき、殺人を繰り返し逮捕された。ある日、32歳の主婦・真琴が住むマンションの隣室に、黎子という少女が引っ越してくる。黎子は教祖・久江の一人娘だった。真琴はそんな黎子に同情し親しくなっていくが、やがて黎子に辛く当たっていた人間ばかりが、死んだり狂いだしたりする。現場には、なぜか黎子の姿が……。黎子が<粛正>を始めたのか? 真琴の疑惑は深まるばかりだった。(帯より引用)
 2002年、第3回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞。加筆訂正のうえ、2003年2月、幻冬舎より単行本刊行。

 

 作者はフリーランスのコピーライターとのこと。そのためかどうかはわからないが、文章は読みやすい。
 大量殺人事件を起こした小さな宗教団体の教祖の娘と平凡な主婦の真琴が知り合うところから物語は始まる。そんな人物が来ればまあいじめられるだろうなあと想像できるだろうが、その通りな状況はちょっとテンプレ的か。それでも少女の不気味さは十分に出ていた。
 ところが物語が、少女の不可解さや不気味さの方向に進むのではなく、真琴の内面と背景に進んでいったのはどうにも不可解。本のタイトルは「邪光」だし、教祖が殺人を繰り返したのは<邪光>を放つものを粛正するため。そして黎子ですら<邪光>の話をしているのだから、そちらをメインのまま話を終わらせるべきではなかっただろうか。
 作品自体も、主人公である真琴の悲しさが主になっており、ホラー要素がどんどん薄れていっているのが残念。書き方を間違えたとしか思えない。

塙宣之『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』(集英社新書)

言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか (集英社新書)

言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか (集英社新書)

  • 作者:塙 宣之
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2019/08/09
  • メディア: 新書
 

  二〇一八年、M-1審査員に抜擢された芸人が漫才を徹底解剖。M-1チャンピオンになれなかった塙だからこそ分かる歴代王者のストロングポイント、M-1必勝法とは? 「ツッコミ全盛時代」「関東芸人の強み」「フリートーク」などのトピックから「ヤホー漫才」誕生秘話まで、"絶対漫才感"の持ち主が存分に吠える。
どうしてウケるのかだけを四〇年以上考え続けてきた、「笑い脳」に侵された男がたどり着いた現代漫才論とは? 漫才師の聖典とも呼ばれるDVD『紳竜の研究』に続く令和時代の漫才バイブル、ここに誕生!(折り返しより引用)
 2019年8月、刊行。

 

 今、関東の漫才師と言ったら第一に浮かぶのがナイツだろう(西はいっぱいいすぎて挙げられない)。ほかの芸人の名前(例えばサンドウィッチマンとか)を挙げる人もいるだろうが、寄席で漫才をメインにしている芸人、となるとやはり最初にナイツの名前を挙げてしまう。そんなナイツの塙が漫才を語っているのだから、読まないわけにはいかない。出てから割と早くに読んでいたのだが、感想を書くのは今頃。言い訳すらないけれど、書けなかったな、凄すぎて。
 どうすれば関東芸人がM-1で勝てるのか。というよりタイトルにある通り、なぜ関東芸人は勝てないのか。その分析力が素晴らしい。現役の漫才師がここまで書いちゃっていいの、と不安になるぐらい詳細な内容なのだが、それこそ老若男女を相手に漫才で笑わせてきた彼らだからこそ、なのだから書けるのだろう。
 南キャンは子守唄、オードリーはジャズ、というのは至言だな。
 今後、M-1を目指す漫才師は皆読むだろう。いや、もしかしたら去年のうちに既に読まれていたに違いない。今まで出場した漫才師はどのような観点で評価されてきたのか。どこを修正していくか。どこを伸ばしていくか。そんなヒントが散りばめられている。表題にある通り、「令和の漫才バイブル」になるだろう。名著。
 それにしても、最後にある「探せば、きっとまだどこかにとんでもない武器が眠っているはずです。宝が埋まっているはずです」とあるが、ミルクボーイはすごかった。あの形式の漫才なら、なんでも当てはめることができる。もちろんそこまで到達するのにはものすごい練習がいただろうし、観察力が必要だろうが。

ダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』上中下(角川文庫)

ダ・ヴィンチ・コード(上) (角川文庫)

ダ・ヴィンチ・コード(上) (角川文庫)

 
ダ・ヴィンチ・コード(中) (角川文庫)

ダ・ヴィンチ・コード(中) (角川文庫)

 
ダ・ヴィンチ・コード(下) (角川文庫)

ダ・ヴィンチ・コード(下) (角川文庫)

 

  ルーヴル美術館のソニエール館長が異様な死体で発見された。死体はグランド・ギャラリーに、ダ・ヴィンチの最も有名な素描<ウィトルウィウス的人体図>を模した形で横たわっていた。殺害当夜、館長と会う約束をしていたハーヴァード大学教授ラングドンは、警察より捜査協力を求められる。現場に駆けつけた館長の孫娘で暗号解読官であるソフィーは、一目で祖父が自分にしか分からない暗号を残していることに気付く……。(上巻粗筋紹介より引用)
 館長が死の直前に残したメッセージには、ラングドンの名前が含まれていた。彼は真っ先に疑われるが、彼が犯人ではないと確信するソフィーの機知により苦境を脱し、二人は館長の残した暗号の解読に取りかかる。フィボナッチ数列黄金比アナグラム……数々の象徴の群れに紛れたメッセージを、追っ手を振り払いながら解き進む二人は、新たな協力者を得る。宗教史学者にして爵位を持つ、イギリス人のティービングだった。(中巻粗筋紹介より引用)
 ティービング邸で暗号解読の末、彼らが辿り着いたのは、ダ・ヴィンチが英知の限りを尽くしてメッセージを描き込んだ<最後の晩餐>だった。そしてついに、幾世紀も絵の中に秘され続けてきた驚愕の事実が、全貌を現した! 祖父の秘密とその真実をようやく理解したソフィーは、二人と共に、最後の鍵を解くため、イギリスへ飛ぶ――。キリスト教の根幹を揺るがし、ヨーロッパの歴史を塗り替えた世紀の大問題作。(下巻粗筋紹介より引用)
 2003年、アメリカで刊行。ロバート・ラングドンシリーズ第2作。2004年5月、角川書店より翻訳が単行本刊行。2006年3月、文庫化。

 

 世界的ベストセラーでいまさらという感じだが、これも買うだけ買って放置していたので、時間ができた時に読んでみた。読み始めるとスカスカ進んだので、もっと早く読んでみればよかったと後悔。
 しかし、「聖杯伝説」とか言われてもピンとこないし、ダ・ヴィンチだって伝記の本を読んだことがあるぐらい。キリスト教だって聖書を読んだことがあるぐらいでほとんど知らないので、結局何が凄いのかさっぱりわからないというのが本音。ここまで執念を燃やす必要がどこにあるんだ、と問いかけたくなるぐらい。そのせいか、登場人物たちののめり込みにはかなり引いた部分があった。逆に言うと、その分冷静に読めたのかなとは思ったが。
 まあこれだけ暗号をよく絡められたな、とは感心するけれど、ぴんと来ない部分も多いので、すごいという印象はない。
 となると残るのは、主人公たちの大脱走劇。何のことはない、結局ただのサスペンスじゃないか、と読み終わって思った次第。まあ楽しかったけれど、心に残るものは特になかった。
 ミステリを読むのには知識が必要なときがあるが、本書なんかもそんな一冊。この本の凄さはたぶん理解できていないのだろう。

『お笑いスター誕生!!』の世界を漂う

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お笑いスター誕生!!」新規情報を追加。B&B横山たかし・ひろしのネタ。
話は変わりますが、おぼん・こぼんが『タイタンライブ』に出ていましたね。こりゃ当分、仲直りはないかな。こういう形で話題になるとは思わなかった。