平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

『お笑いスター誕生!!』の世界を漂う

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お笑いスター誕生!!」新規情報を追加。

 横山たかし師匠が亡くなられました。数年前から車いすに座っての漫才ではありましたが、ほら吹き漫才は健在でした。横山たかし・ひろしがお笑いスタ誕に出ていたというのは、さすがに記事には載っていないですね。なぜ当時出演したか、どこかに書かれているんでしょうか。一度聞いてみたかったです。ご冥福をお祈りします。

C・デイリー・キング『空のオベリスト』(国書刊行会 世界探偵小説全集21)

 

空のオベリスト 世界探偵小説全集(21)

空のオベリスト 世界探偵小説全集(21)

 

  「4月13日正午、おまえは死ぬ」 国務長官の緊急手術に向かう著名な外科医カッター博士に送り付けられた不気味な犯行予告。ニューヨーク市警の敏腕刑事ロード警部は、あらゆる事態を想定して護衛にあたったが、ニューヨークを飛び立って数時間後、その目の前で博士は倒れた――。上空数千フィート、空の密室ともいうべき飛行機の中で、果たして何が起きたのか。エピローグを巻頭に配した構成。手がかり索引など、様々な技巧を駆使し、フェアプレイを掲げて読者に挑戦する、パズラー黄金期の旗手キングの幻の名作。(粗筋紹介より引用)
 1935年、発表。1997年12月、邦訳刊行。

 

 黄金期のアメリカ本格を代表する作家であるキングの幻の名作。オベリストというのは作者の造語で、「疑問を抱く人」という意味である。
 飛行機の中で起きた殺人事件。まさに空の密室。しかし警護に当たっていたロード警部は、登場人物=容疑者の分単位の行動を探し回るだけ。本当に分刻みでアリバイ探しをしているので、読んでいて鬱陶しくなってくる。人間関係に動きがあるから、退屈はしないけれど。そしてようやく見つけた真相は……、ということで見事に背負い投げをくらわされる。まあ何とも皮肉な本格ミステリ。最初にエピローグを置き、最後にプロローグを置く構成の理由がようやくわかる。巻末にある「手がかり索引」も含め、パズル好きなら喜びそうな作品。
 うーん、どう言えばいいのだろう。なんだよこれ、と言いたいのが本音かな。よく考えたな、と思わせる作品であることは間違いないけれど、小説として読んだ場合、どう感想を書けばいいのだろうかと戸惑ってしまう。本格ミステリにおける技巧の到達点の一つかな、とは思ってしまうが、手がかり索引なんて読みにくいというのが正直なところ。これを小説中にうまく入れ込めよ、と言いたい。

斎藤純『夜の森番たち』(双葉文庫)

夜の森番たち (双葉文庫)

夜の森番たち (双葉文庫)

 

  この小説は殺人事件も謎解きもサスペンスもない。ぼくが書きたかったのは、現代の民話とでもいうべき物語だ。ただし、民話は長大な時間を背負っているが、この物語の背後にあるのは、森への僕の憧憬と尊敬の念だけである。仕事を終えた今、ぼくは東北のブナ林に育てられた縄文人の末裔であることを強く意識するとともに、それを誇りに思っている。(斎藤純)(粗筋紹介より引用)
 『小説推理』連載。1997年6月、単行本刊行。2001年2月、文庫化。

 

 田坂萌実は自殺しようと、生まれ育った秋田県にある鬼石のブナの森に入る。登山道から外れ、雨に濡れ、体が冷え、寒気が襲い、目を閉じてしまったところに男が現れ、彼女の身体を肌で温めた。翌々日、病院で目が覚めた萌実。匿名の男に頼まれて迎えにきたペンション経営の七見に助けられたと思い、彼に魅かれていく。陸奥新報の新聞記者で、森林開発を巡る汚職事件を追って東京に飛ばされた小川祐臣は、ほとんど仕事もせず、写真家西善吉の娘であり大手出版社に勤務する夫を持つ奈良崎美枝との不倫関係にあった。
 わりと好きな作家の一人である斎藤純による、現代の民話。もっとも民話と主張しているのは、作者なのだが。林道開発にともなう自然破壊や、マダギにつながる狩猟生活と縄文文化、所々で流れてくるジャズ、そして山道を走るオフロードバイクなど、斎藤純らしさは満載。非常に面白いのだが、最後の展開はあまりにも駆け足で残念。山を通した心の触れ合いは面白いのだが、恋愛要素は必要だったかな。確かに心の触れ合いの終着点はそこに行き着くのだろうが。
 なんかまとまりのないまま終わってしまった感がある。書きたいことを書いていたら、終わりが見えなくなって無理矢理まとめてしまったのだろう。書き下ろしだったら、もう少し違ったラストになっていたと思う。

犯罪の世界を漂う

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「死刑確定囚リスト」「最高裁係属中の死刑事件リスト」「死刑執行・判決推移」を更新。
無期懲役判決リスト 2019年度」に2件追加。
「求刑無期懲役、判決有期懲役 2019年度」に1件追加。
「求刑死刑・判決無期懲役」を更新。
 山田浩二被告の控訴取り下げはびっくりしました。いろいろごねそうなタイプだと思っていたので。その後、『創』の篠田編集長から接見内容が公開されてましたが、取り下げ理由にはさらに驚きました。そんなことで自らの判決を確定させてしまうとは。頭に血が上ると何をしでかすか、わからないタイプですね。
 おそらく今後、控訴取り下げ無効を求めてくるでしょう。今回の控訴取り下げに至る行動も、山田死刑囚の再審理由になるんじゃないかな。当時の精神状態は正常じゃなかった、パニックになると何をしでかすかわからない、などという理由の証拠の一つとして。
 岩間俊彦被告の控訴審公判が月1回ペースで開かれているのだが、もうちょっと詳しい裁判内容を知りたい。相も変わらず無罪主張をしているのだが、それがいったいどんな内容なのか。検察側の反論にどう答えているのか。非常に気になっている。

トム・ロブ・スミス『グラーグ57』上下(新潮文庫)

 

グラーグ57〈上〉 (新潮文庫)

グラーグ57〈上〉 (新潮文庫)

 
グラーグ57〈下〉 (新潮文庫)

グラーグ57〈下〉 (新潮文庫)

 

  運命の対決から3年――。レオ・デミドフは念願のモスクワ殺人課を創設したものの、一向に心を開こうとしない養女ゾーヤに手を焼いている。折しも、フルシチョフは激烈なスターリン批判を展開。投獄されていた者たちは続々と釈放され、かつての捜査官や密告者を地獄へと送り込む。そして、その魔手が今、レオにも忍び寄る……。世界を震撼させた『チャイルド44』の続編、怒濤の登場!(上巻粗筋紹介より引用)
 レオに突きつけられた要求は苛酷をきわめた。愛する家族を救うべく、彼は極寒の収容所に潜入して、自ら投獄した元司祭を奪還する。だが、彼を待っていたのは裏切りでしかなかった。絶望の淵に立たされ、敵に翻弄されながらも、レオは愛妻ライーサを伴って、ハンガリー動乱の危機が迫るブダペストへ――。国家の威信と個人の尊厳が火花を散らした末にもたらされる復讐の真実とは?(下巻粗筋紹介より引用)
 2009年、イギリスで刊行。『チャイルド44』に続くレオ・デミドフシリーズ第2作。2009年9月、新潮文庫より刊行。

 

 『チャイルド44』で世界中から高評価を得たトム・ロブ・スミスのシリーズ第2作で、前作の3年後が舞台となっている。ソ連の最高指導者、ニキータ・フルシチョフによるスターリン批判とその後のハンガリー動乱が背景となっている。
 ひとことで言ってしまうと、レオ・デミドフが家族を守るために奮闘する作品、なのだが、実際にはソ連という国の実像を浮き彫りにした作品である。レオに降りかかる難題やアクションシーンはやりすぎ、と言いたくなるぐらい展開が早すぎるのだが、だからこそ読める作品といえるだろう。どんだけ暴力を受けるんだ、というぐらいレオが痛めつけられるのだが、それでも愛する家族のために力を振り絞る姿に思わず共感してしまう。残酷すぎるぐらいの時代の流れに翻弄されながらも、それでも必死に生きようとする姿が感動を呼ぶ。
 表題の“グラーグ57”は、レオが潜入する第57強制労働収容所を指す。原題は"The Secret Speech"。1956年のソ連共産党第20回大会におけるフルシチョフによる秘密報告「個人崇拝とその結果について」のことである。

今村昌弘『魔眼の匣の殺人』(東京創元社)

魔眼の匣の殺人

魔眼の匣の殺人

 

 その日、“魔眼の匣"を九人が訪れた。人里離れた施設の孤独な主は予言者と恐れられる老女だ。彼女は葉村譲と剣崎比留子をはじめとする来訪者に「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」と告げた。外界と唯一繋がる橋が燃え落ちた直後、予言が成就するがごとく一人が死に、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。さらに客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し――。
 残り四十八時間。二人の予言に支配された匣のなかで、生き残り謎を解き明かせるか?!
 二十一世紀最高の大型新人による、待望のシリーズ第二弾。(粗筋紹介より引用)
 2019年2月、書き下ろし刊行。

 

 鮎川哲也賞本格ミステリ大賞、年末ミステリーベスト三冠と、ミステリ界を席巻した『屍人荘の殺人』シリーズ第二弾。ミステリー愛好会を再建した葉村と、新たに入会した剣崎。班目機関がかかわった超能力研究所を訪れた葉村と剣崎が、外科医と連絡を取ることのできない施設で連続殺人事件に巻き込まれる。
 絶賛されすぎじゃないのと言いたくなるぐらい絶賛された『屍人荘の殺人』。これは第二作が非常に厳しい目で見られるだろうな、作者のプレッシャーは並大抵のものじゃないだろうなと思っていたのだが、1年半程度で第二作が出てくるとは思わなかった。
 前作はゾンビに襲われるというサスペンスの要素も強かったが、本作は予言通り四人が死ぬのか、という要素を除くと、淡々と物語が進んでいく。葉村と剣崎の関係にあったラノベ要素がかなり薄くなっており、作者が謎解きに重点を置いたのかな、という印象を受けた。
 犯人像が見えてこなかった部分ではやや中だるみを感じたものの、最後の剣崎による謎解きは圧巻。「予言」というキーワードを十分に生かした展開はお見事といっていいだろう。まあ、小説の世界ならでは、みたいな逆手の手法ではあったといえるが。
 作者のうまいところは、本格ミステリのお約束の扱い方かな。特に“お約束”の外し方がうまい。それも不自然でなく見せるところが。そこが意外性を生んでいると思う。
 前作ほどのインパクトはないものの、逆に論理性を重視した分、かえって読みやすくなったのではないだろうか。二作目を待っていた人の期待を裏切らない出来であったといってよいだろう。しかし、三作目のハードルは上がるだろうし、そしていずれ迎えるだろう班目機関の畳み方が大変そうだ。作者にはぜひ頑張ってもらいたいところである。