平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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倉知淳『片桐大三郎とXYZの悲劇』(文春文庫)

 元銀幕の大スター・片桐大三郎(現芸能プロ社長)の趣味は、犯罪捜査に首を突っ込むこと。その卓越した推理力と遠慮を知らない行動力、濃すぎる大きな顔面で事件の核心にぐいぐい迫る! 聴力を失った大三郎の耳代わりを務めるのは若き付き人・野々瀬乃枝。この絶妙なコンビが大活躍する最高にコミカルで抱腹絶倒のミステリー!(粗筋紹介より引用)
 『別冊文藝春秋』『オール讀物』2015年に掲載された2編に、書下ろし2編を加え、2015年9月、文藝春秋より単行本刊行。2018年8月、文庫化。

 片桐大三郎の付き人である野々瀬乃枝が、山手線の満員電車から新宿駅で降りたとき、ホームで倒れている男性に遭遇。実は注射器で毒殺された殺人事件だった。「冬の章 ぎゅうぎゅう詰めの殺意」。
 白銀台に住むそれなりに有名な画家が、埃だらけの物置部屋で、車椅子に座ったまま殴られて殺された。凶器は、なぜかウクレレだった。近くには工具箱などもあったのに、犯人はなぜウクレレを凶器に選んだのか。「春の章 極めて陽気で呑気な凶器」。
 退屈な片桐大三郎は、何か事件はないかと携帯電話のGPS機能を悪用し、河原崎警部のいる二階建て住宅を尋ねると、そこでは誘拐事件の真っ最中だった。ベビーシッター若い女性が殺害された、夫婦の赤ん坊が誘拐され、身代金要求の電話がかかっていた。「夏の章 途切れ途切れの誘拐」。
 片桐大三郎の後援会の楽屋でファンが見せたのは、若くして亡くなった世界的な映画監督の未発表シナリオ。公園の時間が始まるので、万が一があってはと事務室にある鍵のかかるキャビネットに保管した。ところが公演途中で気になった河原崎警部が確認に来ると、シナリオが消えていた。「秋の章 片桐大三郎最後の季節」。

 世界的な大スターで、日本人なら誰でも知っている俳優。聴力を失って引退した片桐大三郎が、耳替わりで相手の声をパソコンに打つ付き人野々瀬乃枝とともに、警視庁特殊捜査課の河原崎警部と野末刑事が持ち込む難事件を解いていく連作短編集。
 探偵役の設定は、エラリー・クイーンがバーナビー・ロス名義で発表した悲劇四部作に登場する名探偵、ドルリー・レーンをなぞらえたもの。そして片桐が立ち向かう事件も、「列車の中での針による毒殺事件」「凶器が楽器」など、それぞれ四部作をモチーフにしたものとなっている。最も『Zの悲劇』に相当する「夏の章 途切れ途切れの誘拐」については、共通点がないように見えるが。
 片桐大三郎の設定は、パロディとはいえかなり出鱈目なものになっており、正直言って悪趣味だと思う。ただ、謎解きはなかなか面白い。さすが倉知、と言いたくなる。元作品を知っている分、謎の設定にそれほど驚きを感じることがなかったかな。元作品を知らない人が読んだら、どう思うんだろう。
 残念だったのは、「秋の章」が肩透かしだったこと。狙いすぎて、かえって消化不良に陥った終わり方になっている。
 個人的ベストは「夏の章」。ただ、個人的には推理部分を読みたくなかった。よくこんなこと、思いつくな。
 オマージュとしては面白いが、先にも書いたとおり、ラストをもう少しスカッとさせてほしかった。