平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

アントニイ・バークリー『最上階の殺人』(創元推理文庫)

 閑静な住宅街、四階建てフラットの最上階で高齢女性の絞殺死体が発見されたとの報を受け、モーズビー主席警部率いる捜査班は現場に急行した。室内はひどく荒らされ、裏庭に面した窓に脱出用のロープが下がっている状況から、警察は物取りの犯行と断定、容疑者を絞り込んでいく。しかし警察の捜査を実地に見学しようと同行したロジャー・シェリンガムは、建物内に真犯人がいると睨み、被害者の姪を秘書に雇うと調査に乗り出す。探偵小説本来の謎解きの魅力と、才気あふれるユーモア、痛烈な批評精神が奇跡的な融合を果たしたシリーズ屈指の傑作。(粗筋紹介より引用)
 1931年7月発表。2001年8月、新樹社より邦訳単行本刊行。2024年2月、新訳のうえ、創元推理文庫より刊行。

 ロジャー・シェリンガムシリーズの第七長編(『毒入りチョコレート事件』含む)。物取りによる強盗殺人事件と見られた事件が、シェリンガムの手にかかると建物内の人物による殺人に早変わり。わざわざ被害者の姪であるステラ・バーネットを秘書に雇い、勝手に調査に乗り出す。
 警察の調査結果をもとに、警察の見方とは違った推理を繰り広げるシェリンガムを笑うしかない作品。とはいえ、シェリンガムの推理は、少なくとも目の前に提示された事象や証拠からは思考可能なものである。変わった形で多重推理を楽しむと同時に、やはり「名探偵」を皮肉る作品だよね、これって。最後は笑うしかないし。
 ただ、こういうひねくれた作品が日本でも受け入れられるようになったのは、本格ミステリが爛熟化したからじゃないだろうか。多分戦後すぐにこういう作品が出版されても、全然評判にならなかったと思う。それに社会派推理小説が流行した以後だと、皮肉が皮肉にならないまま終わっちゃってしまうし。日本で様々な本格ミステリが掘りつくされつつある今、革新的なバークリーが改めて評価されたのだろう。
 ただ、皮肉もひねくれ度も許容範囲内にあるから楽しめるわけであって。これ以上ひねくれられたら、さすがに読む気力を無くすだろう。