平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

白井智之『ぼくは化け物きみは怪物』(光文社)

 クラスメイト襲撃事件を捜査する小学校の名探偵。
 滅亡に瀕した人類に命運を託された〝怪物”。
 郭町(くるわまち)の連続毒殺事件に巻き込まれた遊女。
 異星生物のバラバラ死体を掘り起こした三人組。
 見世物小屋(フリークショー)の怪事件を予言した〝天使の子”。
 白井ワールド炸裂!! 心をかき乱す五つの本格明ステリ!(帯より引用)
 『ジャーロ』他に2022~2024年掲載作品に書き下ろしを加え、2024年8月刊行。

 去年の冬休み、小学五年生のリョータは名探偵になることを決めた。冬休み開け、コハダの遠足代が盗まれた。リョータは犯人を指摘するも、クラスメイトの二学期の初めに転校してきたショーンは、その推理が間違いで、別の人物が犯人と指摘する。「最初の事件」。
 宇宙から来た侵略者たちは、地球を16のエリアに分け、それぞれのエリアから64体の人類をサンプルとして収集。侵略者の船、パンパイプで32日間生活する中で知能計測を行い、基準を下回った場合はエリアの人類を滅ぼしてしまう。エリア9、アフリカ南部のサンプルに元警察官の水田時世と一緒に潜り込んだのは、時世と因縁の深い元死刑囚の津野貴美子であった。「大きな手の悪魔」。
 湊会のならず者である𣑥象(たくぞう)は罠にはまって別人を殺してしまい、着の身着の儘で最悪最低の色街、黒塚へ逃げ込む。最後くらい女を抱きたいと願い、尋常小学校の同級生で妓楼を経営しているすけ坊のところへ行くと、納戸で転がっている墜落死したばかりの七竈をあてがわれた。それでも無理矢理挿れると、七竈が生き返った。逆にびっくりした𣑥象が死んでしまった。ところが幽霊となって現れた𣑥象は、自分は毒殺されたので犯人を探してほしいと七竈に頼む。「奈々子の中で死んだ男」。
 異世界から来た三人は、かつてこの島に住んでいた異星生物、モーティリアンの化石を捜しに来た。機械で掘り起こすと、一体の化石を発見する。ただし、深さ8mのところに左手首だけ、そして16mのところに左前腕、そして18mのところに全身の化石が現れた。なぜ深さの違うところから発見されたのか。「モーティリアンの手首」。
 ウッドブリッジ・コミュニティ教会の孤児院から逃げ出し、奇異な外見を見世物にするフリークショーへ入りたいとやってきたのは、ホリーとウォルターの姉弟。ホリーは“天使の子”で、未来を予言することができた。しかしホリーは死んでしまい、ウォルターはフリークショーで働き始める。それから二年後、フリークショーで密室殺人事件が起きる。そしてホリーは二年前、犯人を予告する手紙を封筒に残していた。「天使と怪物」。

 特殊設定本格ミステリの異才、白井智之の短編集。最初の作品が「最初の事件」とあるから連作短編集かと思ったら、特につながりはない、独立した短編集であった。
 短編で使われているトリック自体は、それほど目新しいものではない。ただ特殊設定を生かした舞台作りのおかげで、新しく見えるのだと気付かされた。そういう意味では、新しい物語を生み出す力が物凄いということになるのだが、特殊設定自体があまりにも突飛すぎて、白井自身の実力がミステリマニアの外側に伝わっていないのは残念である。
 今回は短編ということもあり、特殊設定が比較的おとなしめ(あくまで白井作品としては、である)。白井作品が苦手という人にもお薦め……あまりできないかな(苦笑)。5編続けて読むと、表現は悪いがげっぷが出てくる。好きな人にはたまらない、強炭酸の世界である。
 個人的に一番好きなのは「奈々子の中で死んだ男」。舞台こそ色街だが、証言を聞いて論理的に犯人を追い詰めていくロジックを満喫することができる。