平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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麻耶雄嵩『化石少女』(徳間文庫)

 学園の一角にそびえる白壁には、日が傾くと部活に励む生徒らの影が映った。そしてある宵、壁は映し出す、禍々しい場面を……。京都の名門高校に続発する怪事件。挑むは化石オタクにして、極めつきの劣等生・神舞まりあ。哀れ、お供にされた一年生男子と繰り広げる奇天烈推理の数々。いったい事件の解決はどうなってしまうのか? ミステリ界の鬼才がまたまた生み出した、とんでも探偵!(粗筋紹介より引用)
 『読楽』2012~2014年掲載。2014年11月、徳間書店より単行本刊行。2017年11月、文庫化。

 京都市の北部に位置し、百年の歴史を誇る名門、私立ベルム学園。由緒ある家柄である神舞まりあは、古生物学部の部長で二年生。末っ子でわがままに育ったまりあは、化石マニアの変人奇人。大雑把な性格で、成績は下から数えてベスト3以内の赤点常連。桑島彰は同じ古生物学部に所属する一年生。普通のサラリーマン一家に育ったが、近所ということでまりあとは幼馴染の関係。彰の父親は、まりあの父親が社長である会社の社員。彰はまりあのお守り役というか従者のようになっていた。人によっては召使とか従僕とまで。
 ベルム学園では部活が乱立し、部室がないという問題が生じていた。荒子武信率いる現生徒会執行部はこの問題を解決すべく、部員数五人未満が三年続いた過疎部を強制的に廃部することとした。古生物学部はわずか二名、しかも対外的な実績なし。荒子会長は夏までに実績を残さないと廃部にすると最終通達してきた。
 犯人らしき人物が警察に通報した、生徒会の不祥事を探る男子新聞部員殺人事件。停電中に一瞬だけ電気が回復したとき、クラブ棟の白壁に殺人中の影が映った女生徒殺人事件。彰のクラスメートで、私鉄叡山鉄道ファンクラブである叡電部男性部員殺人事件。石川県にある学園の宿泊施設で合宿中に発生した、指名手配犯殺人事件。生徒会による旧クラブ棟抜き打ちガサ入れ中の男子生徒墜落死事件。荒子会長の跡継ぎ候補で古生物学部男子新入部員が、鍵のかかった体育用具室内で越された事件。
 ベルム学園で次々と殺人事件が発生。廃部を免れたいまりあは、生徒会をつぶすべく、生徒会役員の一人が犯人だと奇天烈な推理を繰り広げる。
 奇天烈な探偵とワトソン役のシリーズを複数持つ麻耶雄嵩が、またとんでもない探偵を作り出していた。化石マニアの劣等生で、奇人変人として学園中に知られている神舞まりあ。その従者とみられている桑島彰。古生物学部をつぶしたくないという我儘な想いから、まずは犯人が生徒会役員だと決めつけ、そこから推理を無理矢理組み立てるのだ。しかし当然ながら粗が多い。そこを彰に突っ込まれ、人前で推理を披露することなく終わってしまう。そんな話が六つもあるのだ。
 まずは犯人を決めて、そこから逆算で推理を繰り広げては、「化石バカ」「赤点頭」「赤点ツンデレ先輩」「友達がいない」「赤点推理」などと罵倒され、従者みたいなワトソン役にやり込められる名探偵がいるだろうか。ここまで力関係が逆なのも珍しいと思う。
 実際のところ、推理に無理矢理なところが見受けられるし、そもそも想像、というか妄想を広げる形の推理なので、謎解きの楽しさはあまり見られない。しかも一部の事件では犯人が捕まらないまま終わっており、普通だったら学園閉鎖になってみんな転校してるんじゃないか、などというツッコミは置いておいたとしても、罪悪感が全く見られないというのも奇妙である。まあ、この曖昧な推理と結末も含めて、これが麻耶雄嵩だと言ってしまえばそれまでなんだろうが。
 続編『化石少女と七つの冒険』が好評と聞いたので、とりあえず最初から読んでみようと思って手に取ってみた。登場人物のキャラクターは立っているのに、もやもやだけが残るような作品だった。麻耶雄嵩にしては読み易いので、麻耶ワールドの入り口としては最適かもしれない。