富山県の沖合に浮かぶ油夜島。この島にある外狩家の屋敷「雷龍楼」では二年前、密室で四人が命を落とす変死事件が起こった。事件で両親を失った中学生の外狩霞は、東京にいるいとこ・穂継の家へ身を寄せていたが、下校途中、何者かに誘拐される。霞に誘拐犯は、彼女を解放する条件となる「あるもの」を手に入れるため穂継が雷龍楼へ向かったと告げる。しかし穂継が到着した夜、殺人事件が発生。その状況は二年前と同じ密室状態で、穂継は殺人の疑いをかけられる。穂継が逮捕されると目的のものが手に入らないばかりか、警察に計画を知られてしまう。穂継の疑いを晴らしたければ協力しろ、と誘拐犯に迫られた霞は、「完全なる密室」の謎解きに挑む。(帯より引用)
2024年、書下ろし刊行。
作者は2021年、『虚魚』で第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉を受賞し、デビュー。『虚魚』が結構よかったので、それなりに楽しみにしていたのだが……。
20ページ目には「読者への挑戦」が出てくる。しかも犯人の名前、4人の被害者の名前も出てくる。島内で起きた「完全なる密室」の謎を、島外にいる誘拐された中学生が挑む。これだけだとワクワクしそうな設定なのだが、途中でなぜか小説家が事件関係者と話をしているシーンが出てきて、事件を振り返っている。事件と展開に不自然さが漂う。怪しさがどんどん増していく中で、この結末ですか。うん、アンフェアすれすれだ。
読み終わって感じたのは虚しさ。確かにそういう方法があることは、読み終わってから検索して知った。よくよく読めばあからさまな伏線張っている。だけど最後にこんなの明かされたって、してやられた、と思う人がいるのだろうか。
帯を見たら、これも阿津川辰海と法月綸太郎のコンビがあおりを書いていた。ただ、褒めちゃいないよね、これ。
ある意味、本格ミステリに対抗意識を燃やして書いたのかな。それとも皮肉を込めていたんだろうか。読み終わってみると不満だらけだけど、文句を言う気力すらなくなるような脱力感。時間を返してくれとまでは言わないけれど、読まなくてもよかった。作者には悪いけれど。