平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

馬伯庸『両京十五日 1: 凶兆』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 1425年、明の皇太子・朱瞻基は遷都を図る皇帝に命じられ、首都の北京から南京へと遣わされる。だが、長江を下り南京へと到着したその時、朱瞻基の船は爆破され、彼の命が狙われていることが判明する。朝廷に恨みを持つ、反逆者の仕業なのか? さらに皇帝が危篤との報が届き朱瞻基は窮地で出会った、切れ者の捕吏・呉定縁、才気に満ちた下級役人・于謙、秘密を抱えた女医・蘇荊渓らと南京脱出と北京帰還を目指す。敵が事を決するまで十五日。幾千里にも亘る決死行が、今始まる。歴史サスペンス×冒険小説の超大作!(粗筋紹介より引用)
 2020年、発表。2024年2月、邦訳刊行。

 ポケミス2000番特別作品。古い海外ミステリファンなら、ポケミスという言葉だけで血が騒ぐだろう。世界最大のミステリシリーズの2000番作品とあれば、手に取らないわけにはいかない。
 作者の()伯庸(はくよう)は中国の人気作家で、数々の文学賞を受賞。本作品は2022年11月に舞台劇となり、ロングラン公演となった。
 舞台は中国、明代初期。主人公は次の四人。明の皇太子・(しゅ)瞻基(せんき)。金陵の捕吏(罪人を捕える役人)で、「ひごさお」とあだ名されているぐうたらだが、実は切れ者()定縁(ていえん)。金陵・南京行人司につとめる行人(こうじん)(各地に朝廷を代表して派遣される官僚)で、堅物だが才気溢れる于謙(うけん)。謎の女医・()荊渓(けいけい)。朱瞻基と于謙は実在の人物である。
 ストーリーは粗筋紹介に書かれている通りでわかりやすいもの。馴染みの少ない名前、舞台ではあるが、丁寧に書かれていることもあり、読んでいてストレスを感じることはない。いや、読んでいてワクワクし、興奮していた。南京から北京までの約1000kmをわずか15日で戻らなければならない。行く手を阻む敵の数々。逃亡中に接する人たちの苦しみや思いを知り、四人は成長しながら危機を潜り抜け、北京を目指す。波乱万丈の冒険物語が、読者を明の舞台へいざなう。
 帯に書かれている通りに「華文冒険小説の一大傑作」かどうかは次の巻を読まないと何とも言えないが、少なくとも一冊目を読む限りでは、その言葉に嘘はない、と言い切ってもいい。次の巻が待ち遠しい。