殺人を企む一人の男が、土砂崩れを前に途方にくれた。復讐相手の住む荒土館が地震で孤立して、犯行が不可能となったからだ。そのとき土砂の向こうから女の声がした。声は、交換殺人を申し入れてきた――。同じころ、大学生になった僕は、旅行先で「名探偵」の葛城と引き離され、荒土館に滞在することになる。孤高の芸術一家を襲う連続殺人。葛城はいない。僕は惨劇を生き残れるか。(粗筋紹介より引用)
2024年2月、書下ろし刊行。
大晦日の夕方、小笠原恒治は、絵画、彫刻、建築の世界的アーティスト、
土塔雷蔵の長男・黄来と婚約した飛鳥井光流の助けに応じ、荒土館へ向かった葛城輝義、田所信哉、三谷緑郎の三人。ところが地震に伴う土砂崩れで、田所と三谷は葛城と分断されてしまった。孤立した荒土館で連続殺人事件が発生する。
<館四重奏>シリーズ(と言う名前がついていたことを初めて知った)第三弾。クローズド・サークルと化した館を、「地水火風」の四元素になぞらえて形成するシリーズであるそうだ。
『紅蓮館の殺人』『蒼海館の殺人』から三年経ち、葛城、田所、三谷は大学三年生。大学は別々だが、関係性は相も変わらず。第一部は小笠原視点による旅館「いおり庵」パート。第二部は田所視点による黄土館パート。第三部は謎解きパートとなる。
前振りは第一部で、メインとなるのは第二部なのだが、読み進めても全然面白くならない。特に第二部はこれでもかとばかりの連続殺人が起きるのだが、機械トリックがメインで、しかも仕掛けばかりが大きくて肝心の中身が伴っていない。そもそもこの舞台にリアリティがなくて実現性に乏しい点も問題。電気引っ張るのも大変だろうし、メンテナンスも大変だっただろうな、などと考えてしまう。それにしても、謎が解き明かされても驚きがまったく生じない見掛け倒し感はどうにかならなかったのか。
それに犯人が誰かが見え見えなのもどうなんだろう。もう一人か二人、容疑者ぐらい準備できだだろうに。おまけに動機にも説得力がない。過去二作は、この点だけは一応準備していたのにと思うと、今まで以上にがっかり感が大きい。舞台装置だけ大掛かりなわりにちゃちで、謎解きの部分に全く注意を払っていない印象を与えてしまう。
結局作者が描きたかったのは葛城、田所、光流の関係性なんだろう。シリーズを起承転結で例えれば、まさに「転」の物語。作品自体が転んでしまっている気もするが、次がシリーズ最後だろうし、そこまで付き合おう。