平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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道尾秀介『貘の檻』(新潮社)

貘の檻

貘の檻

あの女が、私の目の前で死んだ。かつて父親が犯した殺人に関わり、行方不明だった女が、今になってなぜ……。真相を求めて信州の寒村を訪ねた私を次々に襲う異様な出来事。果たして、誰が誰を殺したのか? 薬物、写真、昆虫、地下水路など多彩な道具立てを駆使したトリックで驚愕の世界に誘う、待望の超本格ミステリー!(帯より引用)

書下ろしで2014年4月、単行本刊行。



道尾秀介8年ぶりの書き下ろし長編だということだ。そんなに好きな作家でもないので、あまり気にしたこともなかったが。

主人公は職を失って自殺未遂するわ、離婚するわ、薬物で溺れているわといった人間。小学三年生の息子と久しぶりに会った帰り、駅でホームからの転落事故を目撃するが、それが32年前、自分が小学三年生の時に行方不明になった女。しかも、当時の故郷で殺人事件があり、容疑者の父親が水死体で発見されてそのまま迷宮入りしたとき、父と一緒に行方不明になった女。元妻が仕事があるからと預かった息子とともにゴールデンウィーク、長野県の故郷の村に帰り、当時の事件の真相を探る。

作者が時々書く、土着もののミステリ。当時の事件の容疑者の息子だからあまり歓迎されていないという設定は読んでいて少々心苦しいのだが、それは仕方がない。ただ、主人公が飲んでいる薬物の影響もあって時々見る悪夢が何ともウザったい。丁寧と見る向きもあるだろうが、個人的には読んでいて退屈だったし、時にはそれを通り越して苦痛ですらあった。息子の連れ去り事件はあったにせよ、特に事件が起きるわけではなく、寒村の独特の風習や行事などが密接に絡み合っている点がかえって説明が多くなる結果となり、はっきり言って退屈。何度投げ出そうとしたことか。

最後の方でようやく物語が動き出し、過去も含めて事件の真相が明かされるのだが、読後感は今一つ。息子の存在がなかったら、救いはゼロだったに違いない。事件と解決があるけれど、ミステリというよりは純文学か幻想小説の方が近いんじゃないかという気もする。それを抜きにしても、エンタテイメント性はあまりないと言っていいだろう。いや、多分好きな人には好きな話なのかもしれないけれど。

肌が合わないの一言で片づけてもいいけれど、それを抜きにしても、長いだけじゃないのかと言いたくなる。それだけ。