平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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小島和宏『FMWをつくった男たち』(彩図社)

 大仁田厚がいなかったらFMWは成功しなかったけれども、そこに荒井昌一がいて、樋口香織がいて、川崎球場のときにはいなくなっていたけど、茨城清志がいて、大宝拓治がいて、遠藤信也がいて……みんながいたから、ここまで来れたんだよ!
――高橋英樹(1991年9月23日の川崎球場大会について聞かれて)

 1989年10月10日、東京・後楽園ホール。この日、満員の観衆に見守られながら、日本のプロレス史に名を残すある団体が旗揚げ戦を行った。元全日本プロレス大仁田厚を中心にした、〝なんでもあり〟のプロレス団体『FMW』である。わずか5万円の資金で旗揚げされたというバックグラウンド、大部分が新人という選手層の薄さ……しかし、FMWはそのハンデを逆手にとって、ファンの支持を集めていく。そして、旗揚げから約2年、〝電流爆破デスマッチ〟を武器に、川崎球場を3万人を超える観衆で一杯にすることに成功する。メジャー団体が全盛だった90年代に起きた奇跡――なぜ日本初のインディー団体は、川崎球場を満員にすることができたのか。〝涙のカリスマ大仁田厚の功績はもちろん大きい。だが、実はその陰には奇跡の躍進を支えた「FMWをつくった男たち」がいたのだ。『週刊プロレス』のFMW番だった著者・小島和宏が、フロント、選手など、初期FMWを知る関係者を直撃。数々の証言から知られざるFMWの歴史を浮き彫りにする。 営業、広報、生涯担当、リングアナ……。誰も知らなかったFMWの、名もなき勇者たちの物語!(粗筋紹介より引用)
 2022年7月刊行。

 プロレス界にインディーブームを湧き起こした団体。選ばれなかった者たちもプロレスラーになれる時代が来て、メジャー団体を離てすぐに団体やプロモーションを作る時代が来て、そして“プロ”とはとても名乗れないような者たちがプロレスラーになり、アルバイトでプロレスをするようになり、借金をしてつぶしてははすぐに別のプロモーションを作ったり……。ある意味なんでもありの時代を作るきっかけになったのがFMWの成功だった。
 1989年10月6日の旗揚げから1991年9月23日の川崎球場大会開催まで。正確にはFMW旗揚げ前にジャパン女子プロレスの旗揚げからが、FMWの歴史の始まりであり、本書もそこから始まっている。ジャパン女子のスタッフだった者のうちの数名が、後のFMWと関わるからだ。営業部員の浅子文晴(後のレスラー、サンボ浅子)、渉外担当の茨城清志(FMWスタッフ→W★ING代表)、レフェリーのテッド・タナベFMWで旗揚げの一時期レフェリー)、広報担当の高橋英樹FMW営業部長)。ターザン後藤夫人(その後離婚)であり、後にFMWのリングに上がるデスピナ・マンタガスもジャパン女子のリングにレスラーとして上がっている。そして大仁田厚自身が、当時ジャパン女子のレフェリー兼コーチだったグラン浜田とジャパン女子のリングで闘っている(そしてファンから拒絶された)。またTPGもついても触れられており、スペル・デルフィンのインタビューで当時の経緯が触れられている。
 ただ、このインタビュー形式が曲者。言っちゃ悪いが、FMWの歴史の中で所々証言者として使われているだけであり、別項として丸々インタビューのページがあるわけではない。今、辰巳書房から出ている『実録・国際プロレス』などと比べると、証言本としての厚みが違う。嫌な言い方をすると、作者がどのように取捨選択しているかがわからない。もっと生々しい証言を聞きたかった。
 証言者として登場するのは栗栖正伸(プロレスラー)、松永光弘(プロレスラー)、スペル・デルフィン(プロレスラー)、工藤めぐみ(プロレスラー)、コンバット豊田(プロレスラー)、茨城清志(プロレスラー)、大宝拓治(リングアナ兼営業、広報)、樋口香織(広報)、高橋英樹(営業部長)。折角だったら、当時参戦していたリー・ガク・スーや上野幸秀、市原昭仁、三宅綾あたりのインタビューは欲しかったな。上田勝次やジミー・バックランドはもう亡くなっていたのか。
 【はじめに】では出版がコロナ禍で2年近く遅れたこと、ターザン後藤へオファーするも断られたこととその後亡くなったことも書かれいてる。やっぱりターザン後藤の言葉がないと、初期FMWは語れない気がする。ムック本で松永光弘が後藤離脱の「真相」を語っていたけれど、どうだったのだろうか。ただ、後藤が徐々にフェードアウトしていったところを見ると、レスラーとしては融通が利かなかったのだろうなとは思わせるのだが。
 当時大仁田番で、後に仲違いした作者の、青春時代の残滓を書きなぐったとしか言いようがない一冊。まあ、ももクロの公式記者としてやってた方が楽しいだろうしな。『W★ING流れ星伝説 星屑たちのプロレス純情青春録』ほどの面白さがなかったのは残念だった。FMW初期の歴史を振り返るには手ごろではある。