平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

ミシェル・エルベール&ウジェーヌ・ヴィル『禁じられた館』(扶桑社文庫)

 飲食産業で成功を収めた富豪のヴェルディナージュが、マルシュノワール館に引っ越してくる。これまでの所有者には常に災いがつきまとってきた曰く付きの館だ。 再三舞い込む「この館から出ていけ」との脅迫状。果たして雨の夜、謎の男の来訪を受けた直後、館の主は変わり果てた姿で発見される。どこにも逃げ道のない館から忽然と姿を消した訪問者。捜査が難航するなか、探偵トム・モロウが登場し……『黄色い部屋の謎』以降の歴史的空白を埋めるフランス産不可能犯罪小説の傑作、ついに発掘!(粗筋紹介より引用)
 1932年、フランスで発表。2023年3月、邦訳刊行。

 ミシェル・エルベール&ウジェーヌ・ヴィルは1930年代に共作の形で3作の不可能犯罪物の本格ミステリーを執筆。本書はその第1作。エルベールはジャーナリスト、作詞家としても活躍し、単著でもミステリーを何作か残している。
 前半は災いがつきまとう館と、購入した富豪の話が延々と続く。いつになったら事件が起きるんだ、どこまで引っ張るんだなどと思ってはいけない。ちゃんとそこには、伏線が用意されているのだ。まあ、古典ミステリらしいあおり方だな、とは思いながら読んでいたが。
 訪問した謎の男が逃げ場のない館から姿を消す。シンプルな消失トリックなのだが、過去の因縁話などとうまく絡み合い、上質な本格ミステリとして仕上がっているのは見事。やはり本格ミステリは、トリックを生かす舞台と演出が大事。ただトリックの奇抜さに頼っちゃダメなんだよ。
 全く聞いたことのない作家、しかもフランス。まさかこんなストレートな不可能犯罪物の本格ミステリが書かれていたとは思わなかった。余計なことを考えちゃだめだよ、こういう作品に。素直に面白いと感じた作品。黄金時代のミステリが好きな人こそ、読むべき作品。個人的には今年の上位に入るな。