平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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佐藤敏章『神様の伴走者 手塚番13+2』(小学館)

神様の伴走者 手塚番13+2

神様の伴走者 手塚番13+2

ストーリー漫画の地平を、ほとんどひとりで切り開いた天才・手塚治虫。この漫画の神様にも、編集者という、あまたの陰の伴走者たちがいた。今も語り継がれる数々の“手塚伝説”の真相が知りたくて、“手塚番”めぐりを始めてみた--(折り返しより引用)

手塚治虫と編集者のエピソードは数限りない。手塚自身が述べているものもあるし、編集者や周囲の漫画家、アシスタントたちが語ったものもある。とはいえ、噂だけが先走ったものもあるのではないかということで、当時の担当者たちにインタビューを行ったものをまとめたのが本書である。『ビックコミック スペシャル増刊』『ビックコミック1』に2002〜2008年に掲載されたものを1冊にまとめ、2010年に刊行。

締切ギリギリは当たり前、逃走、カンヅメ、雲隠れなど、手塚と編集者にまつわるエピソードは数限りない。それでもこのインタビューで、いくつかは真実ではないというものもあった。たとえば昼夜ついていた編集者たちに文句を言ったら、一人の編集者が「手塚先生を信じます」と言って徹夜でつくのをやめて、やっぱり原稿を続けて落とす結果となり、責任問題となって会社を辞めたというエピソードがあるが、これは嘘だったと当時の編集者が語っている。他にも週刊マンガ誌が初めて創刊されるとき、手塚が『少年サンデー』と専属契約を結んだという話があり、のちの手塚研究家も書いているエピソードであるが、これも当時の小学館編集長が否定している。逆に九州まで大脱走した話は、一緒についていた編集者から詳細に語られている。

もちろん語れない話もあるだろうが、手塚治虫という人物を知る上で貴重な一冊だろう。全13人へのインタビューにプラスし、外伝として松谷孝征マネージャー(現手塚プロダクション社長)、藤子不二雄Aへのインタビューも掲載されている。藤子Fが手塚のアシスタントをしたことがない、というのは初めて知った。そういえば『まんが道』や『トキワ荘青春日記』でも、藤子Aが手伝う話は書かれているが、藤子Fが手伝う話は一つもなかった。寺田ヒロオとの最後のエピソードもいろいろなところで読んだことはあるが、藤子Aからの言葉として書かれるとリアリティが増してくる。