平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

佐々木譲『暴雪圏』(新潮文庫)

 三月末、北海道東部を強烈な吹雪が襲った。不倫関係の清算を願う主婦。組長の妻をはずみで殺してしまった強盗犯たち。義父を憎み、家出した女子高生。事務所から大金を持ち逃げした会社員。人びとの運命はやがて、自然の猛威の中で結ばれてゆく。そして、雪に鎖された地域に残された唯一の警察官・川久保篤巡査部長は、大きな決断を迫られることに。名手が描く、警察小説×サスペンス。(粗筋紹介より引用)
 2009年2月、新潮社より単行本刊行。2011年11月、文庫化。

 『制服捜査』に登場する志茂別駐在所の川久保篤巡査部長が再登場。すでに雪が溶け始めていた三月末、十勝平野が十年ぶりに超大型爆弾低気圧に覆われた日の話である。
 川久保は住民からの通報で、雪が溶け始めた茶別橋の下の斜面のくぼみから地元の主婦、薬師泰子の変死体を発見する。
 地元企業でこき使われていた初老の西田康男は、妻が二年前に死に、子供もなく、胃がんの可能性が高いことから、最後ぐらい楽しもうと職場の金庫から二千万円を持ち出す。
 夫の単身赴任中に出会い系サイトで知り合った菅原信也につきまとわれるようになった坂口明美は、関係を清算しようと包丁を持ち、菅原の指定するペンション・グリーンルーフへ向かう。
 笹原史郎と佐藤章は、組長をはじめほとんどが上部団体の襲名披露に出席するために出払っていた暴力団組長宅を襲い、金庫から約五千万円を奪うが、内儀の浩美が暴れたため、佐藤が射殺し、二人は金を分け別々に逃亡した。
 三月に高校を卒業した佐野美幸は、腎臓疾患で入院した母親の退院が長引くと伝えられた。入院中、義父に何度も襲われた美幸は耐えきれず、札幌の叔母のところへ家出をしようとするが、吹雪でバスが運休しており、通りがかったクレーン付きトラックに載せてもらい、帯広を目指す。
 地元でペンション兼レストラン、グリーンルーフを営む増田直哉・紀子夫妻は、ペンションのボイラーが直らず、業者も吹雪で来られないことを心配していた。昼過ぎに来た客の菅原は、露骨に不満な顔をする。夕方になり、予約をしていたドライブ旅行中の初老の平田夫妻がやってきた。増田は、薪ストーブのあるレストランで暖を取るよう勧めた。
 吹雪で道路に雪が積もり、閉鎖された。日が沈む志茂別のグリーンルーフに一人、また一人と集う。

 様々なドラマが一つに集約する警察小説×パニックサスペンス。細かな動きが速いカット割りのように進んでいくため、目を離すことができない。閉じ込められた志茂別にいる警察官は、川久保ただ一人。この群像ドラマの終着点はお見事である。もちろん、結末から逆算して物語を組み立てていったのだろうが、すべての苦悩が解決する結末は読んでいて感動する。ただ、エピローグの呆気なさは気にかかる。もうちょっとその続きを、この人たちはその後どうなったの、という点を描いてほしかったと思ったのは、私だけではないはずだ。
 ただ、『制服捜査』に見られた川久保の葛藤は、ここでは全く出てこない。言ってしまえば、舞台が同じなら、川久保でなくてもこの物語は成立していたのだ。その点は非常に物足りなかった。その分、娯楽に徹底しているともいえるだろうが。
 何も考えず、大雪によるパニックを楽しみたい人向け。ただもう一つ、何か欲しかった。佐々木譲なら、それができたはず。