平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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フェルディナント・フォン・シーラッハ『コリーニ事件』(創元推理文庫)

 67歳のイタリア人、コリーニが殺人容疑で逮捕された。被害者は大金持ちの実業家で、事務所を開いたばかりの新米弁護士ライネンは国選弁護人を買ってでる。だが、殺されたのはライネンの亡くなった級友の祖父だったと判明する。知らずに引き受けたとはいえ、少年時代に世話になった恩人を殺した男を弁護しなければならない――。苦悩するライネンと、被害者遺族側の辣腕弁護士マッティンガーが法廷で繰り広げる緊迫の攻防戦。そして裁判で明かされた、事件の驚くべき背景とは。刑事事件弁護士の著者が研ぎ澄まされた筆致で描く、法廷劇!(粗筋紹介より引用)
 2011年、ドイツで発表。2013年4月、東京創元社より邦訳単行本刊行。2017年12月、文庫化。

 『犯罪』『罪悪』で評判となったフェルディナント・フォン・シーラッハによる初の長編小説。本書はドイツで一大センセーションを巻き起こし、出版から数か月後にドイツ連邦共和国法務省は省内に調査委員会を立ち上げた。小説が政治を動かした一冊である。
 分量は200ページ足らずで、長編としては非常に短い。ただ、内容は非常に濃く、読みごたえがある。ただ、それは中盤の裁判が始まって以降。単なる殺人事件で、動機こそはっきりしないものの、証拠もそろっており、ひっくり返りようのない裁判。ところが裁判が始まってからの緊迫感は見事。さすが、現役事件弁護士ならでは。そして裁判で明かされる事件の裏については、考えさせられることが多い。
 最後があまりにも呆気ないのは事実だが、本作品の場合、それがベストであろう。結局どう考えて行動するかは、読者に委ねられた。そして政治が動いたのは、その結果なのだろう。深く考えさせられる一冊である。