平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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藤崎翔『逆転美人』(双葉文庫)

 美人に生まれたのは罪ですか――? 抜群の美貌のせいで幼少期から何度も犯罪やいじめの被害に逢い、不幸ばかりの人生を歩んできたシングルマザーの香織(仮名)。とうとう娘の学校の教師にまで襲われ、その事件が大々的に報道されたのを機に、手記『逆転美人』を出版したのだが、それは社会を震撼させる大事件の幕開けだった。果たして『逆転美人』の本当の意味とは!? 全ミステリーファン必読、文学史に残る伝説級超絶トリックに驚愕せよ!!(粗筋紹介より引用)
 2022年10月、書下ろし刊行。

 1月ごろ、話題になっていたので買おうと思って本屋を探しても全く見つからず、増版待ち状態。そのまま忘れていたのだが、ある作品を読んでこの本のことを思い出し、読んでみる気になった。
 まあ、本当だったらどんな書評も読まず、帯も裏の紹介も読まず、いきなり本を手に取るべきだと思う。
 佐藤香織(仮名)は飛び受けた美人に生まれたために、幼少期から犯罪に巻き込まれたり虐められたり。田舎にいたためスカウトされず、貧乏だったため都会にも出れず。美人過ぎるが故に不幸な人生を歩み、ようやく結婚しても旦那が死んだためシングルマザーに。さらに不幸は続き、ついに娘の学校の教師に襲われた。香織は出版社のオファーを受け、今までの人生を綴った手記『逆転美人』を出版する。
 帯には「ミステリー史上初の伝説級トリックを見破れますか? 紙の本でしかできない驚きの仕掛け!」と書かれている。まあここまで書かれると、何をやろうとしているか、ミステリファンならある程度想像つくのではないか。ただそんなこと考えず、普通に読んだ方がいいと思う。物語としても楽しめるから。
 ちょっとステロタイプな気もするが、美人過ぎる女性ならではの不幸をこれでもかと詰め込んでいる。普通に物語として読んでいても面白い(虐めが多くて鬱にもなるが)のだが、作者の伏線の張り方が非常にわかりやすい。なるほどこれか、と思っていたら、意外な方向に進む。いやあ、これは作者にやられた。
 この作品の作者が仕掛けたトリックは、似たような前例がある。ただ本作品の素晴らしいところは、作者が仕掛けるトリックに絶対的な必然性があること。このトリックを小説に溶け込ませた作者の発想と、それを成立させた腕が素晴らしい。
 作者の仕掛けが隅々にまで張り巡らされている。最後の一ページまで気を抜くことができない一級品である。売れすぎたためか、逆にミステリ界隈からの評価が今一つな感じもあるが、ミステリとしての完成度という点も含め、もっと評価されてもいいと思う。