平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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早坂吝『しおかぜ市一家殺害事件あるいは迷宮牢の殺人』(光文社)

「六つの迷宮入り凶悪事件の犯人を集めた。各人に与えられた武器で殺し合い、生き残った一人のみが解放される」。女名探偵の死宮遊歩は迷宮牢で目を覚ます。姿を見せないゲームマスターは6つの未解決事件の犯人を集めたと言うが、ここにいるのは7人の男女。全員が「自分は潔白だ」と言い張るなか、一人また一人と殺害されてゆく。生きてここを出られるのは誰なのか? そしてゲームマスターの目的は?(帯より引用)
 『ジャーロ』2021年7月号~2022年9月号連載。連載時タイトル「迷宮(す)いり」。改題し、加筆修正のうえ、2023年5月、刊行。

 最初は「しおかぜ市一家殺害事件」。餓田(うえだ)という派遣の男が、しおかぜ市に住む一家三人を殺害し、金を奪う。そして警察が捜査に乗り出し、重要な証拠を見つけるまでの経緯が描かれる。
 舞台は変わり、登場するのは女名探偵・死宮遊歩。警察の人に協力を依頼された遊歩は、自らが関わった「迷宮牢の殺人」について語り始める。
 六つの迷宮入り凶悪事件の犯人を集めたという姿を見せないゲームマスターが、集められた7人の男女に与えられた武器で殺し合いを行い、生き残った1人だけが解放される。与えられた武器は、それぞれの凶悪事件で使われた凶器。しかし7人全員が潔白だと言い張り、生き残るための行動をとり始めるも、1人、また1人と殺害されていく。犯人はいったいだれか。
 最初の一家殺人事件はひどい。餓田の行動原理は自分勝手かつわがままでしかなく、読んでいても不快感しかない。しかし警察が捜査に乗り出したかと思ったら、なぜか女探偵が登場し、しかも「迷宮牢の殺人」について語り始めるのだ。なんだ、この展開はと思いつつ、六つの迷宮事件の中に「しおかぜ市一家殺害事件」と思われる事件が含まれている。
 この迷宮牢、わけがわからない。冒頭に迷宮牢の全体図があるのだが、本当に迷路になっていて、所々に各人の部屋や広場があるのだ。わかりづらい。これを文章で説明されても、熱心に追い続ける人はいったい何人いるのだろう。おまけに登場人物に変人が多く、会話が変で読みにくい。『バトルロワイアル』要素も唐突過ぎて興味が持てない。
 最後になって、当然この二つが結びつくのだが、だから何なの、という気持ちの方が強い。少なくとも、騙された感は非常に低いし、あっそうだったの、という程度のものである。警察も、こんな回りくどいことしなくてもよかったんじゃないか。全編に伏線は散りばめられているし、作者にご苦労様とは言いたいが、それだけ。
 「労多くして益少なし」みたいな長編であった。驚きは全然なかったし、なるほどと唸るものもなかった。