平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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斎藤充功『戦後日本の大量猟奇殺人』(ミリオン出版)

戦後の大量殺人についてまとめたムック本。連続殺人も2件あるものの、そのほとんどが大量殺人事件を取り扱ったものである。

筆者は、「日本の大量殺人は「血族」と「身内」という限定された人間関係の中で起きた犯行が多かった」とあるが、これは単に、当時の日本が大家族だったからにすぎないのであり、一家皆殺しにしようとしたらたまたま大量殺人になった、と考えた方がよいのではないだろうか。日本のスプリー・キラーの代名詞となっている津山30人殺しにしても、村全体が家族のようなつながりのあった時代であったことを考慮すべきである。むしろ海外にあるような連続殺人が少ないことを、もっと検討すべきではないだろうか。

小平義雄を「10件連続」と形容しているが、3件については証拠不十分で無罪となっているのだから、このような誤解を招く書き方はやめるべきだろう。北海道「一家8人惨殺事件」では無罪判決について「政治的な匂い」とタイトルで書いているものの、文中にそのような内容は一切無いので、そのような扇情的なタイトルの付け方は控えるべきだっただろう。「「小田原銭湯殺人事件」犯人の少年Aは再犯後獄中自殺していた?」とあるが、根拠は刑務所と70代という年齢が一致するだけであり、根拠としてはあまりにもいい加減。「加古川7人殺害事件」を2007とタイトルで書いているが、犯行があったのは2004年である。「「リンゴ園8人殺し」の犯人が無罪放免の不思議」とあるが、心神喪失状態が無罪になるのは、法律上当然のこと。こういった点が、本書の出来に疑問符を浮かべるところになっている。

第三章のアメリカの事件は蛇足だった。日本の大量殺人と比較するのであれば、もっと件数が必要であるし、そもそも比較するのであれば銃を使った大量乱射殺人事件などを持ち出すべきだっただろう。そうでなかったら、日本の殺人事件だけでまとめるべきだった。
本書は犯罪史でもあまり触れられない事件を扱っており、そういう意味では持っていて損はないだろう。ただ、当時の状況を取材するというのは、近所に住む人たちにとっては迷惑極まりない行為であるのかもしれない。しかし、事件の概要や影響を知るという点について、現地取材は欠かせない。暴露本にならないように取材を続け、執筆をするかというのは、とても難しいことだ。本書が(出版社の性格もあるだろうが)暴露本に近いような作りになっているのは残念であり、できればもっと統計立てた作りにすれば良かったのではないかと思われる(まあ、事件概要をまとめている自分も、人のことは言えないか)。