平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ミシェル・ビュッシ『恐るべき太陽』(集英社文庫)

 画家ゴーギャンや歌手ジャック・ブレルが愛した南太平洋仏領ポリネシアのヒバオア島。謎めいた石像ティキたちが見守るこの島に、人気ベストセラー作家と、彼の熱烈なファンでもある作家志望の女性5人が〈創作アトリエ〉のために集まった。だが作家は失踪、彼女らは次々に死体となって発見され……。最後に残るのは、誰? 叙述ミステリーの巨匠ビュッシが満を持して放つクリスティーへの挑戦作。(粗筋紹介より引用)
 2020年、フランスで発表。2023年5月、邦訳刊行。

 フランスの鬼才、ミシェル・ビュッシの邦訳最新刊。ビュッシを読むのは初めてだが、かなり評判が良いので、手に取ってみた。
 『そして誰もいなくなった』を彷彿させるような連続殺人事件が起きるのだが、実はそこまでが非常に長い。おまけに文体が読みにくい。慣れるまでかなり時間がかかる。登場人物の名前も覚えにくい。とにかく最初は我慢。
 作者の仕掛けはわかりやすい。多分ミステリ慣れした人なら予想付くだろう。ただし面白いのはそこから。半分あたりを過ぎたところから、ようやく面白くなってくる。連続殺人事件の謎は。なぜ作者がこんな仕掛けをしているのか。彼、彼女の思惑が混じり合い、事件はより複雑化していく。最後になって一気に明かされる真相。これはしてやられた。ビュッシの「騙り」とはこういうものなのか。
 人の批評を聞くより前に、とりあえず読んで騙されろ。そう言いたくなる作品。凄かったなあ。感嘆の言葉しか出てこない。今年のベスト候補だね、これは。