平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ルイス・ベイヤード『陸軍士官学校の死』上下(創元推理文庫)

陸軍士官学校の死 上 (創元推理文庫)

陸軍士官学校の死 上 (創元推理文庫)

 
陸軍士官学校の死 下 (創元推理文庫)

陸軍士官学校の死 下 (創元推理文庫)

 

 ニューヨーク州1830年10月。引退した名警官ガス・ランダーは、ウエストポイント陸軍士官学校のセアー校長に呼び出される。同校の士官候補生がひとり、首を吊って死んだのだが、その遺体が何者かによって動かされ、心臓がくり抜かれていたというのだ。この事件を内々に処理したい学校から依頼を受けたランダーは、捜査の過程でひとりの年若い協力者を得る。彼は軍人の卵らしからぬ、青白い顔の夢想家で、名前をエドガー・アラン・ポオといった――青年時代の文豪ポオを探偵役に迎え、優れた時代描写と詩情に溢れた歴史ミステリの傑作登場。(上巻粗筋紹介より引用)
 才気煥発な若き日のポオを協力者に、士官学校候補生の遺体損傷事件を調べる元辣腕警官のランダー。だが、そんな彼らを嘲弄するかのように、第二の死体が発見される。今度は明らかな他殺体として……。そのうえ、内偵先のマークウィス家の令嬢リーへの愛に全霊を捧げるポオとランダーの関係にも、暗雲が立ちこめてきていた。内なる孤独を抱えて生きるふたりの男が、陸軍士官学校を震撼させた殺人事件の捜査の果てに見出した、哀しき真実の姿とは――。19世紀のアメリカを舞台に、詩と、妖美なるものへの憧れに彩られた、圧巻の歴史ミステリ大作。(下巻粗筋紹介より引用)
 2006年、発表。作者の第4長編。2010年7月、邦訳刊行。

 

 作者は本作品でベストセラー作家になったとのこと。前作は、『クリスマス・キャロル』の登場人物ティモシー・クラチットを主人公にした歴史ミステリ、次作もヴィドックが主人公の歴史ミステリである。
 ポオがウエストポイント陸軍士官学校に入ったのは史実であり、セアー校長も実在の人物である。内々に捜査を依頼する理由は、1826年に「エッグノッグの乱」と呼ばれる暴動事件が起きて、約20人が除籍処分となる不祥事があったためとのことである。
 ランダーの手記によって物語が進み、所々でポオの報告書が挟まれる。ちなみにこの報告書、ポオの文体を真似ているらしいが、正直言って分からない。ただ、所々でポオの詩は出てくるし、ポオの作品を思い起こすようなエピソードも出てきて、読者の心をくすぐる仕掛けが巧い。
 最初の手記は「ガス・ランダーの遺書」。ちょっとわかりやすい仕掛けがあるんじゃない、と思ってしまうが、さすがにそこまで甘くはなかったか。中盤ちょっと中だるみしているとは思ったが、それでも心臓がくり抜かれるというショッキングなスタートから、殺人事件、そして甘美な世界や驚きな展開が待ち構えていて面白い。歴史ミステリにしては展開が派手で、読みやすい。
 ポオが出てくる時点でもっと薄暗い展開があるかと思ったが、ポオ自身が意外と活動的。傑作でした、ハイ。