平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ジェフリー・ディーヴァー『スリーピング・ドール』上下(文春文庫)

 他人をコントロールする天才、ダニエル・ペル。カルト集団を率いて一家を惨殺、終身刑を宣告されたその男が、大胆かつ緻密な計画で脱獄に成功した。彼を追うのは、いかなる嘘も見抜く尋問の名手、キャサリン・ダンス。大好評“リンカーン・ライム”シリーズからスピンアウト、二人の天才が熱い火花を散らす頭脳戦の幕が開く。(上巻粗筋紹介より引用)
 抜群の知能で追っ手を翻弄しながらダニエル・ペルの逃走は続く。彼の行動の謎を解明するため、キャサリン・ダンスはカルト集団の元<ファミリー>、そしてクロイトン一家惨殺事件のただ一人の生存者、次女・テレサ接触を試みる――。サスペンスフルな展開の末に訪れる驚愕の終幕まで、ノンストップで駆け抜ける傑作。(下巻粗筋紹介より引用)
 2007年、発表。2008年10月、文藝春秋より邦訳単行本刊行。2011年11月、文春文庫化。

 リンカーン・ライムシリーズ第7作『ウォッチメイカー』で登場し、あのライムをも唸らせた美貌の人間嘘発見器、キネシクスのスペシャリスト、キャサリン・ダンスを主人公としたスピンアウト作品。ライムもほんのちょっとだけ登場する。
 “マンソンの息子”の異名を取り、熱狂的な信奉者の集団“ファミリー”を率いた絶対的な支配者だったダニエル・レイモンド・ペルは、クロイトン一家殺害事件で一家四人を殺害した謀殺、さらに“ファミリー”の男性一人を現場で殺害した故殺の罪で終身刑の判決を受けた。
 それから8年後。10年前に起きた未解決の男性農場主殺人事件の凶器が発見され、ペルの指紋がついていた。ペルはキャプトーラ刑務所からモンテレー郡裁判所に連れられ、キャサリン・ダンスの尋問を受ける。ペルは無罪を主張。ダンスは違和感を抱き、凶器が発見された経緯を調べ、それが仕組まれたものだと気付く。しかし間に合わず、ペルは外の手助けを借り、刑務所より警備が薄い裁判所から脱獄した。
 追われつつ、犯行を重ねて逃亡を重ねるダニエル・ペル。キャサリン・ダンスは捜査を指揮するとともに、当時の“ファミリー”でペルと一緒に暮らしていた女性3人を集めてペルの実像を調べるとともに、惨殺事件の唯一の生存者、次女テレサ接触を試みる。
 逃げるものと、それを追いかけるもの。天才と呼ばれる二人の知力と知力のぶつかり合い。サスペンスあふれるノンストップの展開。そしてディーヴァーお得意のどんでん返しの連鎖。ディーヴァーならではの展開ではあるが、特に本作品の“どんでん返し”は見事と言いたい。ライムシリーズの物的証拠を重ねていく捜査とは逆に、人間心理の分析も含めた心理闘争を軸にした逃亡劇だと思って読み進めていたが、あっと驚かされる見事な反転劇は、ディーヴァー作品の中でもトップクラスといっていいだろう。振り返ってみると作品の至る所に伏線が引かれているのだが、それを全く気付かせない作者の筆遣いは大したもの。その分、ラストの展開がやや蛇足に思えてしまう事になったのはちょっと残念。
 新シリーズ1作目としては、全く問題のない出来だろう。ダンスを囲む魅力あふれる登場人物、会話のやり取りも楽しめる。次の作品も早く読みたくなった(ということで、次に取り掛かりたいのだが、どこに収めているのかわからないのである)。