平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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トマス・ウォルシュ『深夜の張り込み』(創元推理文庫)

深夜の張り込み (創元推理文庫)

深夜の張り込み (創元推理文庫)

三人の刑事が、凶悪な銀行強盗逮捕のためニューヨークのアパート街に張り込みを開始する。しかし、犯人が強奪した四万ドルの大金に目がくらんだ刑事シェリダンは、ひそかに犯人を射殺して、死体と現金を犯人の自動車の中に隠す。シェリダンの行動に不信の念を抱く同僚の刑事。犯人の自動車発見に全力を挙げる警察の捜査網。その手のうちを知り尽くしたシェリダンは、たくみに警戒陣の裏をかいて脱出の機をうかがう。愛とにくしみ、友情と裏切りの人間模様を織りまぜて、殺人鬼と化していく悪徳警官の心理をヴィヴィッドに描く野心作。(粗筋紹介より引用)

1950年、アメリカで発表(中島河太郎の解説だと、1952年になっている。どちらが正しいのだろう)。1961年2月、翻訳刊行。



作者は1930年代から雑誌に短編ばかりを発表。デビューは『ブラック・マスク』で1933年とのこと。1950年に初めての長編『マンハッタンの悪夢』を発表。本作品は、『殺人者はバッジをつけていた』(原題Push-over)のタイトルで映画化されている。

この頃結構流行っていたと記憶がある、悪徳警官物の一冊。といっても最初から悪人だったわけでなく、目の前に大金がくらんで悪の道に染まったという方が正しいが。

移り気で喧嘩っ早いリチー・マコ―リスター、気が小さくて用心深く酒好きのパディー・エイハーン、そして主人公のウォルター・シェリダンという三人の刑事が銀行強盗の妻の部屋の張り込みをするところから物語は始まる。

テンポは非常に速いし、登場人物それぞれの心情はよく描かれていると思うのだが、視点が三人の刑事を中心にころころ変わるので、物語に没頭できないまま話がどんどん進んでいく。こういう悪徳刑事ものは、主人公一人をじっくり描いた方が感情移入しやすいと思うのだが、いかがだろうか。

ページの薄さもあるだろうが、どことなく海外ドラマを読まされているようだった。まあ、昔のパルプ雑誌を思い出すのならそれでもいいのだろうが、この展開はどちらかといえば犯罪心理小説としてじっくり読みたかったところ。方向違いの感想だが。