平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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相沢沙呼『invert II 覗き窓の死角』(講談社)

 嵐の山荘に潜む若き犯罪者。そして翡翠をアリバイ証人に仕立て上げる写真家。犯人たちが仕掛けた巧妙なトリックに対するのは、すべてを見通す城塚翡翠。だが、挑むような表情の翡翠の目には涙が浮かぶ。その理由とは――。ミステリランキング5冠『medium 霊媒探偵城塚翡翠』、発売即重版10万部『invert 城塚翡翠倒叙集』に続く待望の第3作目。犯人視点で描かれる倒叙ミステリの金字塔!(粗筋紹介より引用)
 『小説現代』2021年9月号掲載「生者の言伝」と書下ろし「覗き窓(ファインダー)の死角」を収録。2022年9月、単行本刊行。

 

 誰もいない沖原一家の別荘へ忍び込んだ15歳の夏木蒼汰。友人である悠斗から鍵の位置を聞いていたので、勝手に入って使っていたのだ。台風の日、目を覚ますと悠斗の母親が殺されており、凶器のナイフを蒼汰が握っていた。焦って証拠を隠しているところに、車が故障した城塚翡翠千和崎真が助けを求めに来た。「生者の言伝」。
 女性カメラマンの江刺詢子は、仕事場の近くにある喫茶店で城塚翡翠と知り合う。同じミステリファンである二人は、友人となった。詢子は復讐のため、フリーランスモデルの藤島花音を殺害する計画を立てる。アリバイの証人に選んだのは、翡翠だった。「覗き窓(ファインダー)の死角」。
 本のタイトル通り、倒叙推理小説シリーズの第二弾。中編二本を収録。
 「生者の言伝」は綺麗なお姉さんたちが、何も知らない少年を弄ぶ話(苦笑)。まあそれは半分冗談として、ミステリファンの読者ならほぼ想像がつく流れと展開。雑誌で読むには手ごろな一編である。
 「覗き窓の死角」は城塚翡翠にせっかくできた友人を追い詰める話。詢子のアリバイトリックは既知の物の応用であり、それほど難しいものではない。この作品の目玉は、あの翡翠に友人ができてフワフワするところ。
 本作品集は、倒叙ミステリとしての仕掛けもトリックも、前作までと比べるとかなり弱い。しかしそれを上回るのは、城塚翡翠に人間味を持たせた部分。そういう意味で、面白く読める一冊に仕上がっている。これで次作はまた少し、雰囲気の違った作品が読めるかな。
 ドラマ『霊媒探偵・城塚翡翠』のサイトを見ると、原作は『medium 霊媒探偵城塚翡翠』となっているのだが、本作の2編はドラマ化に合わせて書かれたとしか思えない。どちらも映像にしやすそうで、話としても盛り上がりそう。ちょっとしたサービスシーンもあるし(笑)。