平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ジャニス・ハレット『ポピーのためにできること』(集英社文庫)

 イギリスの田舎町で劇団を主宰するマーティン・ヘイワードは地元の名士。次回公演を控えたある日、彼は劇団員に一斉メールを送り、2歳の孫娘ポピーが難病を患っていると告白。高額な治療費を支援するため人々は募金活動を開始したが、この活動が思わぬ悲劇を引き起こすことに──。 関係者が残したメール、供述調書、新聞記事など、資料の山から浮かび上がる驚愕の真相とは!? 破格のデビュー作。(粗筋紹介より引用)
 2021年、イギリスで発表。2022年5月、邦訳刊行。

 

 弁護士のロデリック・タナーは、司法実務修習生のオルフェミ(フェミ)・ハッサンとシャーロット・ホルロイドに大量の書類を送る。そのほとんどはメールやテキスト・メッセージで、所々に補助的資料として新聞記事やSNSの投稿が入っている。イギリスの田舎町で起きた騒動、そして殺人事件が発生。フェミとシャーロットは、大量のデータから事件の背景をまとめ、真相を探り出す。
 基本的にメールのやり取りが主となっているので、正直いって読みにくい。さらに登場人物や背景を理解するのに時間がかかる。おまけに登場人物が多すぎ。人物紹介だけで42名、終盤初めの振り返りではなんと82名の人物の名前が並べられている。メールのやり取りだからか、陰口や生の感情がこれでもかとばかりに表に出てきて、読んでいて精神的に不安になってしまう。しかも事件が起こるのは中盤以降だし。それにしても気付かないものかね、不思議だった。これがイギリスの見えざる階級社会なのかと思えば、納得できないこともないが。
 フーダニットではあるが、メールや供述調書などの資料でごまかしている印象が強い。普通の小説体にしたら、簡単にわかってしまうのではないか。まあ、それが作者の工夫といってしまえばそれまでだが。真相が判明するまで長くてダレるし。
 いったいどこが「21世紀のアガサ・クリスティー」なのかわからないが、これだけ書ききったことについては素直に脱帽する。ただ、全面的に好きになれない作品。