平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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デイヴィッド・ピース『TOKYO YEAR ZERO』(文春文庫)

TOKYO YEAR ZERO (文春文庫)

TOKYO YEAR ZERO (文春文庫)

 

 1945年8月15日。玉音放送の響く中で見つかった女の死体。そして1年後に発見される第二、第三の死体。GHQ占領下の東京に殺人鬼が徘徊している! そいつを追う警視庁の三波警部補。だが三波自身も警察組織も暗い秘密を隠していた……。実在の連続殺人に材をとり、圧倒的リアリティで描く戦後の闇。衝撃の警察小説大作。(粗筋紹介より引用)
 2007年10月、イギリス、アメリカ、日本で同時刊行。2012年11月、文庫化。

 

 作者は1967年、イギリス、ヨークシャー生まれ。1994年より東京に在住、1999年の『1974 ジョーカー』で作家デビュー、2004年の長編『GB84』でジェイムズ・テイト・ブラック記念賞を受賞する(作者紹介より引用)。作者は13年間、日本に滞在していたとのこと。
 本作品はGHQ占領下の東京で発生した怪事件を描く「東京三部作」の第1作。7人の女性が連続殺害された小平事件が扱われている。最もメインとなるのは、主人公の三波警部補や警察組織が隠していた秘密のほうになるのだが。
 はっきり言って読みにくい。文体自体も独特だし、カタカナの擬音語がこれでもばかりかと差し込まれ、さらに白昼夢を見ているのかと言いたくなるようなわけのわからない場面が挿入されたりと、これでもかとばかりなぐらい読書意欲を削ぐ文章が続く。小平事件自体有名な事件だし、内容的に新しいものが出てくる要素はない。英国人が当時の日本を書いただけ、という印象しかなかったのだが、途中から作者の意図が何となく見えてきて、そこからは興味を持って読むことができた。日本人ではない人物が描いた、占領下のニッポン。日本人が避けていた狂気と無秩序の部分が浮かび上がってくる感がある。
 資料だけでよくこれだけ書いたな、というのが本音。日本人が避けてきた日本の恥部に触れたような印象を受ける。ただ、何も小平事件を選ばなくても、とは思ったが。