- 作者: 松本清張
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1961/08/15
- メディア: 文庫
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『文藝春秋』1959年5〜7月号掲載。第16回文藝春秋読者賞受賞。同年、文藝春秋より刊行。1961年8月、角川文庫化。
R新聞論説委員仁科俊太郎は、ホテルで会った元警視庁幹部である岡瀬隆吉との会話中、不用意に「あの時は、アンダースンがね……」と漏らして後悔の色を見せて話題をずらしたことに興味を抱き、資料を取り出して帝銀事件のことを調べる。アンダースンとは、GHQで防諜部門を受け持ち、特務機関を作っていた人物であり、占領当時の米軍の犯罪時には必ず横やりを入れていた。
本作品は戦後犯罪史に名を残す帝銀事件について小説風に書き記したものである。論説委員の仁科が元警視庁幹部との会話をきっかけに事件を振り返る形になっている。描かれたのは死刑確定から4年後。世間ではまだまだ平沢有罪説も根強かったようで、小説内でも仁科俊太郎の妻が平沢憎しの発言をしている。
事件から捜査、そして平沢の逮捕から自供までを丹念に追いかけ、所々で疑問点を投げかけている。ただし、その時点で終わりなのだ。資料を読み終わった仁科も、疑わしいところがあると思うレベルで終わっており、本事件の真相を追うような展開はどこにもない。語り部が仁科である必要など全くなく、これだったら普通に事件を記せばよかったのにと思ってしまう。この歯切れの悪さはいったい何だろう。事件の真相の一端ぐらい触れてもらわなければ面白くない。
結局、帝銀事件の表面的な全容をまとめるだけに終わった作品である。清張は後に『日本の黒い霧』で帝銀事件を追いかけることになるが、個人的には本作品の増補版という形で出してほしかったと思う。