平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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門井慶喜『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』(角川文庫)

 名作ミステリを読み解くと、美術が、宗教が、歴史が見えてくる!『時の娘』に隠された絵画の秘密、『緋色の研究』が提示する産業革命の功罪、『薔薇の名前』で描かれた宗教裁判。ミステリと絵画の密接な関係を論じながら、時代背景や当時の文化事情に華麗なロジックで鋭くメスを入れる。ミステリと歴史小説を知り尽くした気鋭の作家ならではの、画期的な近代史入門書。第69回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)受賞作。(粗筋紹介より引用)
 2015年11月、幻戯書房より単行本刊行。2016年、第69回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)受賞。2017年12月、角川文庫化。

 

 取り上げられているのは『時の娘』『緋色の研究』「アッシャー家の崩壊」『荒野のホームズ』『薔薇の名前』『わたしの名は赤』。ミステリと美術の関係を通し、当時の時代背景や文化を巡る考察が述べられている。作者には美術探偵・神永美有シリーズもあるぐらいなので、そちらの方面には詳しいのだろう。
 正直、この数冊だけで近代史を読み解くというのはかなり暴論というか、サンプル数が少なすぎるんじゃないかとは思う。だから、入門書とか堅苦しいことは考えず、作者がミステリをどう近代史に結び付けていくかという手法をお手並み拝見、という感じで読んだ方が面白いのではないか。私はそういう方向から読んで、素直に楽しんだ。中身の正確さはあまり考えていない。
 こういう論もあるんだね、程度で読めば楽しい作品。堅苦しく読む必要はない。