平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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石沢英太郎『21人の視点』(光文社文庫)

21人の視点 (光文社文庫)
 

  「彼」の許に届いた一通の手紙。それは、17年まえの国有地払い下げにからむ汚職事件の真相を暴いた親書だった。K省の課長補佐だった「彼」の父に責任を負わせ、自殺に至らせた殺される価値のある成功者たち! 「彼」の復讐計画は静かに進行する……。
 新しい多元的描写を推理小説にとりいれた長編意欲作!(粗筋紹介より引用)
 『赤旗』日曜版1975年1月~12月連載。連載時タイトル「石の怒り」。大幅な補訂を施し、1978年9月、カッパノベルスより刊行。1985年7月、光文社文庫化。

 

 タイトルにある通り、21人の視点から語られるエピソードにより、復讐譚が浮かび上がる構成となっている。解説の土屋隆夫が言うように、多シーン描写という表現のほうがぴったり来る。一番短いのは、わずか2ページ。こういう手法を使うと、徐々に事件の全貌が明らかになっていき、その過程は楽しめる。復讐譚とは関係のない事件が絡んだりするところは面白い。こういう手法ならでは、といったところだろう。
 ただ、肝心の復讐譚が面白くない。序盤の脅迫部分なんて、本当に実行可能なのかどうか疑問に思うところもあるのだが、そういったところはスルーされている。中盤が面白い分、逆にがっかりしてしまった。多分、そういう整合性について作者はあまり気にしていないのだろう。あくまで事件で通り過ぎた多くの視点を絡める方に重点を置いている。こういう構成だったら、最後に鮮やかな解決シーンがあった方が、より映えると思うのだが、どうだろうか。
 作者の長編はあまり読んでいないのだが、やっぱり短編のほうが面白いかな。狙いすぎて、仕上がりが今一つだった。
 作者の短編集、復刊しませんかね。創元推理文庫あたりで。