平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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横溝正史『完本 人形佐七捕物帳 九』(春陽堂書店)

 横溝正史が愛惜をもって描いた時代劇調ミステリシリーズ―江戸を舞台に、人形のような色男である佐七が繰り広げる推理劇。
 第九巻は昭和29~30年に各誌に掲載された作品を中心に、計20本を収録。
「お時計献上」はカーを思い起こさせる密室殺人、連続殺人が繰り広げられる。これで解決がもう少し手が込んでいれば、面白い作品になったと思うと惜しい。「呪いの畳針」ももう少し伏線を貼っていれば傑作になったかと思うと、これも惜しい。「舟幽霊」は犯人捜しの傑作。謎が解き明かされると、背筋が寒くなってくる。「遠眼鏡の殿様」は身分違いの恋を扱った人情噺の傑作。
「猫と女行者」でも猫が死体の血を嘗めているシーンが出てくるけれど、このシチュエーション、横溝好きだね。
「ふたり市子」の辰の雷嫌い、「蛇使い浪人」の豆六の蛇嫌い、「どくろ祝言」で朝帰りで佐七とお粂にこっぴどく怒られる辰と豆六、「花見の仇討」での四人そろっての花見など、佐七一家の関係性やキャラクターの取り扱いにも年季が入ってきているが、「五つめの鍾馗」の佐七とお粂の夫婦喧嘩のやり取りを見ると、どっちもどっちだなと思わず笑ってしまいたくなる。トリックを用いた謎解き、人情噺など佐七作品の面白さはいろいろあるが、レギュラーキャラクターのコミカルで信頼し合っているやり取りも楽しい。